Lebesgue-Stieltjes測度の存在
最終更新:2021/10/21
ここまで, いろいろな定理を勉強して, 確率測度の拡張定理を証明した. これを活用してみよう, ということで第一弾はLebesgue-Stieltjes測度の存在を示す.
非専門家が書いています. 十分に批判的に読んで頂くようお願いいたします. 間違い・疑問点などあれば, ぜひコンタクトフォームへ連絡いただけると幸いです.
定理
まず, 以下の性質をもつ $F(x)$ を考える.
この様な, $F(x)$ が与えられたとき, $F(x)$ を分布函数とする正則確率測度 $P$ が唯ひとつ存在する. この $P$ をLebesgue-Stieltjes測度という.
注
$P$ を $\mathbb{R}^1$ の上の確率測度とし, $P$ の定義域 $\cD(P)$ が $\cB^1 = \cB(\mathbb{R}^1)$ と一致するとき, $P$ を $\mathbb{R}^1$ の上のBorel確率測度という. また, このLebesgue拡大は必ず存在し, 拡大したもの ( 完備化したもの ) を正則確率測度という.
注
$P$ を $\mathbb{R}^1$ の上のBorel確率測度とするとき,
を $P$ の分布函数という.
証明
準備
左半区間 $(a, b]$ に対して,
を定義する. また, 左半区間の有限個の直和全体を $\cA$ とすると, $\cA$ は加法族. なぜなら, あきらかに $\Omega \in \cA$ と, $A \in \cA \Rightarrow A^c \in \cA$ と, $A, B \in \cA \Rightarrow A \cup B \in \cA$ とをみたすから.
いま,
に対し,
と定義する. これは, 加法族の上に定義された初等確率測度であるので, 拡張定理より, $p$ が $\cA$ の上で共通点性をもてば, $p$ は $\sigma[\cA]$ つまり $\cB^1$ 上の確率測度に拡張することができる. そして, それをLebesgue拡大したもの $P$ が求めたかったLebesgue-Stieltjes測度となる.
ということで, $p$ の共通点性を示そう.
$p$ の共通点性
とする. 任意の有限左半区間 $I = (a, b]$ に対して, $J = (a+\ve, b]$ を作りその閉包 $\overline{J}$ をとると,
ここで, $F$ が右連続であるので $\ve$ をいくらでも小さくして $F(a+\ve)$ を $F(a)$ にいくらでも近づけることができる. もし, $I$ が無限区間であったとしても, 条件 ( F3 ) より, $J$ の端を十分に大きく ( もしくは小さく ) することで有限区間にとることができる.
今, $A_n \in \cA$ は, 左半区間の有限和であるので, その構成区間の各々に対して上のように $J_n$ をとり, その直和を $B_n$ とする. するともちろん,
でしかも, $p(A_n) - p(B_n)$ はいくらでも小さくできるので, 以降の便宜上
となるように $\{ B_n \}$ を定めると,
となる. なお, 途中の $\color{red}{\leq}$ は $A_n$ が単調減少であることによる. 一方, 最初の仮定から $p(A_n) \geq \alpha$ であるから,
これと, $p$ の定義\eqref{defp}より明らかに, $\bigcap_{i=1}^n B_i \neq \varnothing$. よって,
$\overline{B_i}$ は有界閉集合であるから, Cantorの共通点定理 ( 単調減少の閉区間列の共通部分は空集合ではない ) より,
$A_n \supset \overline{B_n}$ なので,
より, $p$ の共通点性がいえた.
一意性
$\cA$ は 乗法系 ( $\pi$ 系 ) なので, $\cA$ のうえで $p_1 = p_2$ なら, $\sigma[\cA] = \cB^1$ のうえでも $p_1 = p_2$ であるということが, 確率測度に関する一致の定理よりわかる.
$\blacksquare$
感想・参考文献
感想
これで, かなり馴染み深い確率論との関連性がみえてきた. 分布函数というのが, いわゆる確率分布函数であろう. けれど, その存在を示すのに用いた定理は多く長い道のりだった.
参考文献
伊藤清 確率論 (岩波基礎数学選書)