確率測度に関する一致の定理
定理
$\cA$ を集合 $\Omega$ 上の加法族 ( $\sigma$-加法族でないことに注意! ) , $p$ を $\cA$ 上の初等確率測度とする.
このとき,
$p$ を $\sigma[\cA]$ 上の確率測度 $P$ にまで拡張可能 $\quad \Longleftrightarrow \quad $ $p$ が $\cA$ 上で $\sigma$ 加法的
ここで $\sigma$ 加法的とは,
$A_1, A_2, \ldots \in \cA$ が互いに素で, $\sum_{n=1}^{\infty} A_n \in \cA$ $\Longrightarrow$ $p \left( \sum_{n=1}^{\infty} A_n \right) = \sum_{n=1}^{\infty} p(A_n)$.
更に, この拡張は一意である.
初等確率測度とは
まず, $\sigma$-加法族の $\sigma$-加法性をただの加法性に緩めたもの, つまり有限和で閉じているものを加法族と定義する.
そして, 集合 $\Omega$ 上の加法族 $\cA$ で定義された集合函数 $p$ が以下をみたすとき ( $A, B \in \cA$ ) , $p$ を初等確率測度という.
\begin{align}
&\large p(A) \geq 0, \tag{p.1} \\[5pt]
&\large p(A+B) = p(A) + p(B), \tag{p.2} \\[5pt]
&\large p(\Omega) = 1. \tag{p.3}
\end{align}
定理の言い換え
$p$ が $\cA$ 上で $\sigma$ 加法的であること, という条件は, 以下の条件 ( 共通点性 ) と同等である.
\begin{align}
A_1 \supset A_2 \supset \cdots, \; A_n \in \cA,\; \bigcap_{n=1}^\infty A_n = \varnothing \Longrightarrow \lim_{n \rightarrow \infty} p(A_n) = 0,
\end{align}
もしくは,
\begin{align}
A_1 \supset A_2 \supset \cdots, \; A_n \in \cA,\; \inf{p(A_n)} \gt 0 \Longrightarrow \bigcap_{n=1}^\infty A_n \neq \varnothing.
\end{align}
証明
方針
まず, 必要性 ( $\Rightarrow$ ) については, $p$ が $\sigma[\cA] \supset \cA$ で$ \sigma$-加法的なので当然, $\cA$ の上でも $\sigma$-加法的であることからわかる.
よって, 十分性を ( $\Leftarrow$ ) を示す.
Carathéodoryの定理を使う方針を取ろう. そのために示すべきことを明らかにする.
まず, 以下のような外測度 $\mu^*$を用意しよう.
\begin{align}
\mu^*(B) = \inf\left\{ \left. \sum_{n=1}^{\infty}p(A_n) \;\right|\; \bigcup_{n=1}^\infty A_n \supset B,\; A_n \in \cA \right\}
\end{align}
である ( これが外測度の定義を満たすことは略 ) .
Carathéodoryの定理が示すことは, $\mu^*$可測集合全体 $\cM$ は $\sigma$-加法族で, $\mu = \mu^*\mid_\cM$ は測度であるということであった ( $\mu^*\mid_\cM(\Omega) = 1$ も以下で示す ) .
したがって,
- 命題1 : $\mu^*(A) = p(A),\; A \in \cA$
- 命題2 : $\cA \subset \cM$
を示せば, ( $\cA \subset \sigma[\cA] \subset \cM$に注意して ) $P = \mu\mid_{\sigma[\cA]}$ が求める拡張となる.
命題1の証明
$p$ は仮定より$\sigma$-加法的だが, 劣加法的でもある. なぜなら,
\begin{align}
& A\in \cA, \; A_n \in \cA, \; A \subset \bigcup_{n=1}^{\infty}A_n \\[5pt]
&\Longrightarrow A = \sum_{n=1}^{\infty} A \cap \left( A_n \setminus \bigcup_{k=1}^{n-1} A_k \right) \notag \\[5pt]
&\Longrightarrow p(A) = \sum_{n=1}^{\infty} p \left( A \cap \left( A_n \setminus \bigcup_{k=1}^{n-1} A_k \right) \right) \notag \\[5pt]
&\Longrightarrow p(A) \leq \sum_{n=1}^{\infty} p(A_n) \notag \\[5pt]
\end{align}
であるからである.
今,
\begin{align}
\mu^*(A) = \inf\left\{ \left. \sum_{n=1}^{\infty}p(A_n) \;\right|\; \bigcup_{n=1}^\infty A_n \supset A,\; A_n \in \cA \right\}
\end{align}
なのだから, 任意の $A \in \cA$ に対して
\begin{align}
p(A) \leq \mu^*(A)
\end{align}
である.
また, $A = A \cup \varnothing \cup \varnothing \cup \cdots ,\; A, \varnothing \in \cA$ と $p$ の劣加法性より,
\begin{align}
\mu^*(A) \leq p(A) + p(\varnothing)+ p(\varnothing) \cdots \quad = p(A).
\end{align}
これで, $p(A) = \mu^*(A)$ が示せた.
更に, $\mu^*(\Omega) = p(\Omega) = 1$ より$\mu = \mu^*\mid_\cM$ は確率測度であるということもわかった.
命題2の証明
$A \in \cA$ ならば, 任意の $W \subset \Omega$ に対して
\begin{align}
\mu^*(W) \geq \mu^*(W \cap A) + \mu^*(W \cap A^c)
\end{align}
を示せばよい.
任意の $W \subset \Omega$ に対して, $W \subset \bigcup_{n=1}^{\infty} A_n$ となる $A_n \in \cA$ をとると, ${}^\forall A \in \cA$ に対して,
\begin{align}
& W \cap A \subset \bigcup_{n=1}^\infty A_n \cap A \\[5pt]
&\Longrightarrow \mu^*(W \cap A) \leq \mu^*(\bigcup_{n=1}^\infty A_n \cap A) \leq \sum_{n=1}^\infty p(A_n \cap A). \notag
\end{align}
同様に,
\begin{align}
W \cap A^c \subset \bigcup_{n=1}^\infty A_n \cap A^c \Longrightarrow \mu^*(W \cap A^c) \leq \sum_{n=1}^\infty p(A_n \cap A^c).
\end{align}
二式を辺辺足し合わせて,
\begin{align}
\mu^*(W \cap A) + \mu^*(W \cap A^c) \leq \sum_{n=1}^\infty p(A_n). \label{a}
\end{align}
ここで, $\mu^*(W)$ の定義
\begin{align}
\mu^*(W) = \inf\left\{ \left. \sum_{n=1}^{\infty}p(A_n) \;\right|\; \bigcup_{n=1}^\infty A_n \supset W,\; A_n \in \cA \right\}
\end{align}
を思い出すと, \eqref{a} の右辺の下限を取ることで, 求めたかった結果
\begin{align}
\mu^*(W \cap A) + \mu^*(W \cap A^c) \leq \mu^*(W)
\end{align}
が得られる.
一意性
最後に, このような拡張が一意に定まることを示そう.
$\cA$ 上で $P_1(A) = P_2(A)$ であるとする.
今, $\cA$ は乗法族なので, 確率測度に関する一致の定理より,
$\sigma[\cA]$ 上でも $P_1(A) = P_2(A)$ である.
よって, $\mu \mid_{\sigma[\cA]}$ は一意である.
$\blacksquare$