$ \newcommand\bm[1]{\boldsymbol{#1}} \newcommand\ve{\varepsilon} \newcommand\vecseq[3]{{#1}_{#2}, \ldots, {#1}_{#3}} \newcommand\cA{\mathcal{A}} \newcommand\cD{\mathcal{D}} \newcommand\cB{\mathcal{B}} \newcommand\cM{\mathcal{M}} $
 

確率測度の拡張定理

確率測度の拡張定理の証明. 伊藤『確率論』定理2.4に相当.
Carathéodoryの定理を使って確率測度の拡張定理を証明してみよう.


非専門家が書いています. 十分に批判的に読んで頂くようお願いいたします. 間違い・疑問点などあれば, ぜひコンタクトフォームへ連絡いただけると幸いです.

確率測度に関する一致の定理

定理

$\cA$ を集合 $\Omega$ 上の加法族 ( $\sigma$-加法族でないことに注意! ) , $p$ を $\cA$ 上の初等確率測度とする. このとき,

$p$ を $\sigma[\cA]$ 上の確率測度 $P$ にまで拡張可能 $\quad \Longleftrightarrow \quad $ $p$ が $\cA$ 上で $\sigma$ 加法的


ここで $\sigma$ 加法的とは,

$A_1, A_2, \ldots \in \cA$ が互いに素で, $\sum_{n=1}^{\infty} A_n \in \cA$ $\Longrightarrow$ $p \left( \sum_{n=1}^{\infty} A_n \right) = \sum_{n=1}^{\infty} p(A_n)$.

更に, この拡張は一意である.

初等確率測度とは

まず, $\sigma$-加法族の $\sigma$-加法性をただの加法性に緩めたもの, つまり有限和で閉じているものを加法族と定義する. そして, 集合 $\Omega$ 上の加法族 $\cA$ で定義された集合函数 $p$ が以下をみたすとき ( $A, B \in \cA$ ) , $p$ を初等確率測度という.

\begin{align} &\large p(A) \geq 0, \tag{p.1} \\[5pt] &\large p(A+B) = p(A) + p(B), \tag{p.2} \\[5pt] &\large p(\Omega) = 1. \tag{p.3} \end{align}

定理の言い換え

$p$ が $\cA$ 上で $\sigma$ 加法的であること, という条件は, 以下の条件 ( 共通点性 ) と同等である.

\begin{align} A_1 \supset A_2 \supset \cdots, \; A_n \in \cA,\; \bigcap_{n=1}^\infty A_n = \varnothing \Longrightarrow \lim_{n \rightarrow \infty} p(A_n) = 0, \end{align}

もしくは,

\begin{align} A_1 \supset A_2 \supset \cdots, \; A_n \in \cA,\; \inf{p(A_n)} \gt 0 \Longrightarrow \bigcap_{n=1}^\infty A_n \neq \varnothing. \end{align}

証明

方針

まず, 必要性 ( $\Rightarrow$ ) については, $p$ が $\sigma[\cA] \supset \cA$ で$ \sigma$-加法的なので当然, $\cA$ の上でも $\sigma$-加法的であることからわかる. よって, 十分性を ( $\Leftarrow$ ) を示す.

Carathéodoryの定理を使う方針を取ろう. そのために示すべきことを明らかにする. まず, 以下のような外測度 $\mu^*$を用意しよう.

\begin{align} \mu^*(B) = \inf\left\{ \left. \sum_{n=1}^{\infty}p(A_n) \;\right|\; \bigcup_{n=1}^\infty A_n \supset B,\; A_n \in \cA \right\} \end{align}

である ( これが外測度の定義を満たすことは略 ) . Carathéodoryの定理が示すことは, $\mu^*$可測集合全体 $\cM$ は $\sigma$-加法族で, $\mu = \mu^*\mid_\cM$ は測度であるということであった ( $\mu^*\mid_\cM(\Omega) = 1$ も以下で示す ) . したがって,


  • 命題1 : $\mu^*(A) = p(A),\; A \in \cA$
  • 命題2 : $\cA \subset \cM$

を示せば, ( $\cA \subset \sigma[\cA] \subset \cM$に注意して ) $P = \mu\mid_{\sigma[\cA]}$ が求める拡張となる.

命題1の証明

$p$ は仮定より$\sigma$-加法的だが, 劣加法的でもある. なぜなら,

\begin{align} & A\in \cA, \; A_n \in \cA, \; A \subset \bigcup_{n=1}^{\infty}A_n \\[5pt] &\Longrightarrow A = \sum_{n=1}^{\infty} A \cap \left( A_n \setminus \bigcup_{k=1}^{n-1} A_k \right) \notag \\[5pt] &\Longrightarrow p(A) = \sum_{n=1}^{\infty} p \left( A \cap \left( A_n \setminus \bigcup_{k=1}^{n-1} A_k \right) \right) \notag \\[5pt] &\Longrightarrow p(A) \leq \sum_{n=1}^{\infty} p(A_n) \notag \\[5pt] \end{align}

であるからである.

今,

\begin{align} \mu^*(A) = \inf\left\{ \left. \sum_{n=1}^{\infty}p(A_n) \;\right|\; \bigcup_{n=1}^\infty A_n \supset A,\; A_n \in \cA \right\} \end{align}

なのだから, 任意の $A \in \cA$ に対して

\begin{align} p(A) \leq \mu^*(A) \end{align}

である. また, $A = A \cup \varnothing \cup \varnothing \cup \cdots ,\; A, \varnothing \in \cA$ と $p$ の劣加法性より,

\begin{align} \mu^*(A) \leq p(A) + p(\varnothing)+ p(\varnothing) \cdots \quad = p(A). \end{align}

これで, $p(A) = \mu^*(A)$ が示せた.

更に, $\mu^*(\Omega) = p(\Omega) = 1$ より$\mu = \mu^*\mid_\cM$ は確率測度であるということもわかった.

命題2の証明

$A \in \cA$ ならば, 任意の $W \subset \Omega$ に対して

\begin{align} \mu^*(W) \geq \mu^*(W \cap A) + \mu^*(W \cap A^c) \end{align}

を示せばよい.

任意の $W \subset \Omega$ に対して, $W \subset \bigcup_{n=1}^{\infty} A_n$ となる $A_n \in \cA$ をとると, ${}^\forall A \in \cA$ に対して,

\begin{align} & W \cap A \subset \bigcup_{n=1}^\infty A_n \cap A \\[5pt] &\Longrightarrow \mu^*(W \cap A) \leq \mu^*(\bigcup_{n=1}^\infty A_n \cap A) \leq \sum_{n=1}^\infty p(A_n \cap A). \notag \end{align}

同様に,

\begin{align} W \cap A^c \subset \bigcup_{n=1}^\infty A_n \cap A^c \Longrightarrow \mu^*(W \cap A^c) \leq \sum_{n=1}^\infty p(A_n \cap A^c). \end{align}

二式を辺辺足し合わせて,

\begin{align} \mu^*(W \cap A) + \mu^*(W \cap A^c) \leq \sum_{n=1}^\infty p(A_n). \label{a} \end{align}

ここで, $\mu^*(W)$ の定義

\begin{align} \mu^*(W) = \inf\left\{ \left. \sum_{n=1}^{\infty}p(A_n) \;\right|\; \bigcup_{n=1}^\infty A_n \supset W,\; A_n \in \cA \right\} \end{align}

を思い出すと, \eqref{a} の右辺の下限を取ることで, 求めたかった結果

\begin{align} \mu^*(W \cap A) + \mu^*(W \cap A^c) \leq \mu^*(W) \end{align}

が得られる.

一意性

最後に, このような拡張が一意に定まることを示そう.

$\cA$ 上で $P_1(A) = P_2(A)$ であるとする. 今, $\cA$ は乗法族なので, 確率測度に関する一致の定理より, $\sigma[\cA]$ 上でも $P_1(A) = P_2(A)$ である. よって, $\mu \mid_{\sigma[\cA]}$ は一意である.

$\blacksquare$

感想・参考文献

参考文献

伊藤清 確率論 (岩波基礎数学選書)

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