Lebesgue拡大(確率測度の完備化)
最終更新:2021/09/24
Lebesgue拡大(確率測度の完備化)の証明. 伊藤『確率論』p.49問xvに対する解答という形で証明する.
非専門家が書いています. 十分に批判的に読んで頂くようお願いいたします. 間違い・疑問点などあれば, ぜひコンタクトフォームへ連絡いただけると幸いです.
定理(伊藤『確率論』の問)
$P$ を確率測度, 確率空間は $(\Omega, \cD(P), P)$ とする. $P(N) = 0$ となる $P$-可測集合を $P$-零集合という. $P$-零集合の部分集合が全て $P$-可測(よって $P$-零)であるとき, $P$ を完備確率測度という.
任意の確率測度 $P$ に対して完備拡張は必ず存在し, しかもその中の最小の拡大が存在する. この拡張をLebesgue拡大という.
証明
方針
天下り的だが, 教科書のヒントを用いて,
とすると, これがLebesgue拡大となっていることを示す. となると, 示すべき事は以下の4つである.
- $\cD(Q)$ は $\sigma$-加法族,
- $Q$ は確率測度,
- $(\Omega, \cD(Q), Q)$ が完備確率空間,
- これが, 完備拡張の中で最小.
1.$\cD(Q)$ は $\sigma$-加法族
$\sigma$-加法族の定義をひとつづつ確認していく.
σ.1
$\varnothing \in \cD(Q)$ は明らか.
σ.2
$A \in \cD(Q)$ とすると, $\cD(Q)$ の定義より
$\cD(P)$ は $\sigma$-加法族なので, $B_1^{\;c},\; B_2^{\;c} \in \cD(P)$ で, また,
今,
であるので, 式\eqref{eq_i}, \eqref{eq_ro}より $A^{c}$ が $\cD(Q)$ の定義を満たしている, つまり $A^{c} \in \cD(Q)$.
σ.3
$A_n \in \cD(Q)$ とする.
$A = \bigcup_{n=1}^{\infty} A_n \in \cD(Q)$ を示せば良い.
$A_n \in \cD(Q)$ より, 各 $n$ について
である. いま
と定義する. すると当然
でありまた,
となる(1行目→2行目は簡単な集合論の考え方でわかる). これで, $\bigcup_{n=1}^{\infty} A_n \in \cD(Q)$ が示された.
条件 σ.1, σ.2, σ.3 が確認されたので $\cD(Q)$ の $\sigma$-加法性はOK.
$\square$
2.$Q$ は確率測度
確率測度の定義をひとつづつ確認していく.
1
もとより $P$ が確率測度で有るので, $P$ を用いて定義されている $Q$ についても $0 \leq Q(A) \leq \infty$ は明らか.
2
$A_n \in \cD(Q)$ で互いに素, $A = \bigcup_{n=1}^{\infty}$ とする.
$A_n \in \cD(Q)$ より, 各 $n$ について
である. いま
と定義する. すると
となる.
等式 $\color{red}{=}$ が成立するのは, $A_n$ が互いに素なので $B_{1n}$ も互いに素だから.
等式 $\color{blue}{=}$ が成立するのは, $A-B_1 \subset B_2 - B_1$, $P(B_2 - B_1) = 0$ だから.
3
$P(\Omega) = 1$ なので, $Q(\Omega)$ も $1$ となる.
これで, $Q$ が確率測度の定義を満たすことがわかった.
$\square$
3.$(\Omega, \cD(Q), Q)$ が完備確率空間
$N \subset A$, $Q(A) = 0$ とする. $\cD(Q)$ の定義より,
また, $P(B_2) - P(B_1) = 0$ より, $P(B_2)$ も $0$.
いま, $B_1 = \{ \varnothing \}$ とすれば, $N \subset A \subset B_2$ なので, $B_1 \subset N \subset B_2$ でありまた, $P(B_2 - B_1) = 0$. よって, $N \in \cD(Q)$.
$\square$
4.完備拡張の中で最小
これ若干自信がないというか定性的です.
$\cD(Q)$ の定義
は, 全ての $B \in \cD(P)$ と, 任意の $P$-零集合の全ての部分集合を含む. しかも, このような $\sigma$-加法族 は上に示す $A$ を必ず含まなければならないので最小である.
$\square$
これで定理は示された.
$\blacksquare$
一般の測度の場合
伊藤ルベーグでは, 一般の測度の場合の完備化が以下のように記されている.
測度空間 $(\Omega, \cB, \mu)$ について, $E \subset \Omega$ のなかで
なるものの全体を $\overline{\cB}$, また $\overline{\mu} = \mu(B)$ としたとき($\ominus$ は対称差), 確率空間 $(\Omega, \overline{\cB}, \overline{\mu})$ が最小の完備化となる.
感想・参考文献
感想
確率論の勉強をしているとよくつかわれる.
とはいえ, 完備化の定義というより, いつでも必ず完備化できるという事実が重要なのだと思う.
というか練習問題としては難しすぎん? テレンス・タオのルベーグ積分でも(ヒント無しで!)完備化の存在が練習問題になってたし, これが普通なのか?
参考文献
伊藤 清 確率論 (岩波基礎数学選書)
伊藤 清三 ルベーグ積分入門(新装版) (数学選書)