$\pi\lambda$ 定理, Dynkin族定理
最終更新:2021/08/27
$\pi\lambda$ 定理, Dynkin族定理の証明
非専門家が書いています. 十分に批判的に読んで頂くようお願いいたします. 間違い・疑問点などあれば, ぜひコンタクトフォームへ連絡いただけると幸いです.
定義
$\cA$ を集合 $S$ のある部分集合族とする.
完全加法族 ( $\sigma$-加法族 )
以下の3つの条件をみたす集合族 $\cA$ を $S$ 上の $\sigma$-加法族という.
乗法族 ( $\pi$系 )
$\cA$ が交演算で閉じているとき, $\cA$ は乗法族であるという. すなわち,
Dynkin族 ( $\lambda$系 )
$\cA$ が以下の3つをみたすとき$\cA$ はDynkin族という.
(D.2), (D.3)は可算直和, 固有差で閉じているということ. (D.3)のかわりに以下が使われることもある.
$\cA$ で生成されるDynkin族
$\cA$ を含む最小のDynkin族を「$\cA$ で生成されるDynkin族」とよび, $\lambda [\cA]$ と記す.
$\pi \lambda$ 定理
$\cA$ が乗法族かつDynkin族なら $\sigma$-加法族である.
証明
$\sigma$-加法族の条件を一つづつ確かめていく.
条件1
$\cA$ がDynkin族なので $S \in \cA$ である.
条件2
$A \in \cA$ ならば, $A^c = S \setminus A$ である.
Dynkin族は固有差で閉じているので, $A^c \in \cA$.
条件3
$A_n \in \cA (n = 1, 2,\ldots) \Longrightarrow \bigcup_{n=1}^{\infty} A_n \in \cA$ をいえばよい.
であり, $\cA$ は乗法族であったので右辺は $\cA$ に属する.
$\blacksquare$
Dynkin族定理
$\cA$ が乗法族ならば, $\lambda[\cA] = \sigma[\cA]$.
証明
$\lambda[\cA] \subset \sigma[\cA]$ はあきらか. なぜなら, $\sigma$-加法族はDynkin族の条件をみたすので, $\sigma[\cA]$ はDynkin族であり, 当然 $\cA$ を含む最小のDynkin族 $\lambda[\cA]$ を含む. よって, $\lambda[\cA] \supset \sigma[\cA]$ を示せばよい. そのためには, $\lambda[\cA]$ が $\sigma$-加法族であることを言えば十分であるが, そもそも $\lambda[\cA]$ がDynkin族であるので, $\pi \lambda$ 定理より $\lambda[\cA]$ が乗法族であることを言えば良い.
今, 以下のような $S$ の集合族 $\cD_1$ を用意する.
すると, $\cD_1$ はDynkin族となる.
証明 ( click )
地道に(D.1), (D.2), (D.3)を確認すればよい.
( D.1 )
$S \cap B = B,\; B \in \cA \subset \lambda[\cA]$ なのでもちろん, $S \in \cD_1$.
( D.2 )
$C, D \in \cD_1$ で非交のとき, $B \in \cA$ に対して, $(C+D) \cap B = (C \cap B) + (D \cap B)$ である.
$C \in \cD_1, B \in \cA$ なので, $C \cap B \in \lambda[\cA]$, 同様に $D \cap B \in \lambda[\cA]$.
よって, Dynkin族の定義より, $(C+D) \cap B \in \lambda[\cA]$.
( D.3 )
$C, D \in \cD_1,\; C \subset D$ とする.
$B \in \cA$ に対して, $(D \setminus C) \cap B = (D \cap B) \setminus (C \cap B)$ であり, D.2を示したのと同様に $(D \cap B),\; (C \cap B) \in \lambda[\cA]$.
しかも, $C \cap B \subset D \cap B$ なので, Dynkin族の定義より $D \setminus C \in \cD_1$.
$\square$
また, 仮定より $\cA$ は乗法族であることから $\cD_1 \supset \cA $ ( $\because$ $A \in \cA$ とすると, $A \in \lambda[\cA]$ なので, ${}^\forall B \in \cA$ に対して $A \cap B \in \cA \subset \lambda[\cA]$. これは, 条件 \eqref{4}をみたす ) . すると当然, $\lambda[\cA]$ は $\cA$ を含む最小のDynkin族なので, $\cD_1 \supset \lambda[\cA]$.
いま, 以下のように $S$ の集合族 $\cD_2$ を定義すると,
$\cA \subset \cD_2$ である ( $\because$ 上で示した $\cD_1 \supset \lambda[\cA]$が意味することは, $\cD_1$ の定義\eqref{4}と照らし合わせると, $A \in \lambda[\cA],\; B \in \cA \Longrightarrow A \cap B \in \lambda[\cA]$ ということであり, これは $B \in \cA$ のとき, $B \in \cD_2$ であるということ.
今, $\cD_1$ がDynkin族であることを示したのと同じようにして$\cD_2$ がDynkin族であることがわかる. よって, $\cA \subset \cD_2$ より, $\lambda[\cA] \subset \cD_2$. これが示すことは, $\cD_2$ の定義より
であり, これは $\lambda[\cA]$ が乗法族であることにほかならない.
$\blacksquare$
感想・参考文献
感想
Dynkin族定理の証明は, $\cD_1$, $\cD_2$ を作るところがトリッキーだと思う. どうやったらこれらの集合族を作るアイデアに至るのだろうか?
参考文献
伊藤清 確率論 (岩波基礎数学選書)
東京大学 数理手法VI(楠岡成雄)1-3 1.1.2 Dinkin系.