$ \newcommand\bm[1]{\boldsymbol{#1}} \newcommand\ve{\varepsilon} \newcommand\vecseq[3]{{#1}_{#2}, \ldots, {#1}_{#3}} \newcommand\cA{\mathcal{A}} \newcommand\cD{\mathcal{D}} $
 

$\pi\lambda$ 定理, Dynkin族定理

$\pi\lambda$ 定理, Dynkin族定理の証明

非専門家が書いています. 十分に批判的に読んで頂くようお願いいたします. 間違い・疑問点などあれば, ぜひコンタクトフォームへ連絡いただけると幸いです.

定義

$\cA$ を集合 $S$ のある部分集合族とする.

完全加法族 ( $\sigma$-加法族 )

以下の3つの条件をみたす集合族 $\cA$ を $S$ 上の $\sigma$-加法族という.

\begin{align} &\large S \in \cA, \tag{σ.1} \\[5pt] &\large A \in \cA \Longrightarrow A^c \in \cA, \tag{σ.2} \\[5pt] &\large A_n \in \cA \; (n = 1, 2, \ldots) \Longrightarrow \bigcup_{n=1}^{\infty} A_n \in \cA. \tag{σ.3} \end{align}

乗法族 ( $\pi$系 )

$\cA$ が交演算で閉じているとき, $\cA$ は乗法族であるという. すなわち,

\begin{align}\large{ A, B \in \cA \Longrightarrow A \cap B \in \cA. }\end{align}

Dynkin族 ( $\lambda$系 )

$\cA$ が以下の3つをみたすとき$\cA$ はDynkin族という.

\begin{align} &\large S \in \cA, \tag{D.1} \\[5pt] &\large A, B \in \cA,\; A \cap B = \varnothing \Longrightarrow A + B \in \cA, \tag{D.2} \\[5pt] &\large A, B \in \cA,\; A \subset B \Longrightarrow B \setminus A \in \cA. \tag{D.3} \end{align}

(D.2), (D.3)は可算直和, 固有差で閉じているということ. (D.3)のかわりに以下が使われることもある.

\begin{align} \large A_1 \subset A_2 \subset A_3 \cdots \in \cA \Longrightarrow \bigcup_{n=1}^{\infty} A_n \in \cA. \tag{D.3'} \end{align}

$\cA$ で生成されるDynkin族

$\cA$ を含む最小のDynkin族を「$\cA$ で生成されるDynkin族」とよび, $\lambda [\cA]$ と記す.

$\pi \lambda$ 定理

$\cA$ が乗法族かつDynkin族なら $\sigma$-加法族である.

証明

$\sigma$-加法族の条件を一つづつ確かめていく.

  条件1  
$\cA$ がDynkin族なので $S \in \cA$ である.

  条件2  
$A \in \cA$ ならば, $A^c = S \setminus A$ である. Dynkin族は固有差で閉じているので, $A^c \in \cA$.

  条件3  
$A_n \in \cA (n = 1, 2,\ldots) \Longrightarrow \bigcup_{n=1}^{\infty} A_n \in \cA$ をいえばよい.

\begin{align} \large \bigcup_{n=1}^{\infty} A_n &\large= \sum_n A_n \cap (A_1 \cup \cdots \cup A_{n-1})^c \\[5pt] &\large= \sum_n A_n \cap A_1^c \cap \cdots \cap A_{n-1}^c \notag \end{align}

であり, $\cA$ は乗法族であったので右辺は $\cA$ に属する.

$\blacksquare$

Dynkin族定理

$\cA$ が乗法族ならば, $\lambda[\cA] = \sigma[\cA]$.

証明

$\lambda[\cA] \subset \sigma[\cA]$ はあきらか. なぜなら, $\sigma$-加法族はDynkin族の条件をみたすので, $\sigma[\cA]$ はDynkin族であり, 当然 $\cA$ を含む最小のDynkin族 $\lambda[\cA]$ を含む. よって, $\lambda[\cA] \supset \sigma[\cA]$ を示せばよい. そのためには, $\lambda[\cA]$ が $\sigma$-加法族であることを言えば十分であるが, そもそも $\lambda[\cA]$ がDynkin族であるので, $\pi \lambda$ 定理より $\lambda[\cA]$ が乗法族であることを言えば良い.

今, 以下のような $S$ の集合族 $\cD_1$ を用意する.

\begin{align}\large{ \cD_1 = \left\{ A \mid {}^\forall B \in \cA,\; A \cap B \in \lambda[\cA] \right\}. \label{4} }\end{align}

すると, $\cD_1$ はDynkin族となる.

証明 ( click )

地道に(D.1), (D.2), (D.3)を確認すればよい.

  ( D.1 )  
$S \cap B = B,\; B \in \cA \subset \lambda[\cA]$ なのでもちろん, $S \in \cD_1$.

  ( D.2 )  
$C, D \in \cD_1$ で非交のとき, $B \in \cA$ に対して, $(C+D) \cap B = (C \cap B) + (D \cap B)$ である. $C \in \cD_1, B \in \cA$ なので, $C \cap B \in \lambda[\cA]$, 同様に $D \cap B \in \lambda[\cA]$. よって, Dynkin族の定義より, $(C+D) \cap B \in \lambda[\cA]$.

  ( D.3 )  
$C, D \in \cD_1,\; C \subset D$ とする. $B \in \cA$ に対して, $(D \setminus C) \cap B = (D \cap B) \setminus (C \cap B)$ であり, D.2を示したのと同様に $(D \cap B),\; (C \cap B) \in \lambda[\cA]$. しかも, $C \cap B \subset D \cap B$ なので, Dynkin族の定義より $D \setminus C \in \cD_1$.

$\square$

また, 仮定より $\cA$ は乗法族であることから $\cD_1 \supset \cA $ ( $\because$ $A \in \cA$ とすると, $A \in \lambda[\cA]$ なので, ${}^\forall B \in \cA$ に対して $A \cap B \in \cA \subset \lambda[\cA]$. これは, 条件 \eqref{4}をみたす ) . すると当然, $\lambda[\cA]$ は $\cA$ を含む最小のDynkin族なので, $\cD_1 \supset \lambda[\cA]$.

いま, 以下のように $S$ の集合族 $\cD_2$ を定義すると,

\begin{align}\large{ \cD_2 = \left\{ B \mid {}^\forall A \in \lambda[\cA],\; A \cap B \in \lambda[\cA] \right\} \label{d2} }\end{align}

$\cA \subset \cD_2$ である ( $\because$ 上で示した $\cD_1 \supset \lambda[\cA]$が意味することは, $\cD_1$ の定義\eqref{4}と照らし合わせると, $A \in \lambda[\cA],\; B \in \cA \Longrightarrow A \cap B \in \lambda[\cA]$ ということであり, これは $B \in \cA$ のとき, $B \in \cD_2$ であるということ.

今, $\cD_1$ がDynkin族であることを示したのと同じようにして$\cD_2$ がDynkin族であることがわかる. よって, $\cA \subset \cD_2$ より, $\lambda[\cA] \subset \cD_2$. これが示すことは, $\cD_2$ の定義より

\begin{align}\large{ A \in \lambda[\cA],\; B \in \lambda[\cA] \Longrightarrow A \cap B \in \lambda[\cA] }\end{align}

であり, これは $\lambda[\cA]$ が乗法族であることにほかならない.

$\blacksquare$

感想・参考文献

感想

Dynkin族定理の証明は, $\cD_1$, $\cD_2$ を作るところがトリッキーだと思う. どうやったらこれらの集合族を作るアイデアに至るのだろうか?

参考文献

伊藤清 確率論 (岩波基礎数学選書)

東京大学 数理手法VI(楠岡成雄)1-3 1.1.2 Dinkin系.

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