$ \newcommand\bm[1]{\boldsymbol{#1}} \newcommand\ve{\varepsilon} \newcommand\vecseq[3]{{#1}_{#2}, \ldots, {#1}_{#3}} \newcommand\cA{\mathcal{A}} \newcommand\cD{\mathcal{D}} \newcommand\cB{\mathcal{B}} \newcommand\cM{\mathcal{M}} $
 

Lebesgue-Stieltjes測度の存在

ここまで, いろいろな定理を勉強して, 確率測度の拡張定理を証明した. これを活用してみよう, ということで第一弾はLebesgue-Stieltjes測度の存在を示す.


非専門家が書いています. 十分に批判的に読んで頂くようお願いいたします. 間違い・疑問点などあれば, ぜひコンタクトフォームへ連絡いただけると幸いです.

定理

まず, 以下の性質をもつ $F(x)$ を考える.

\begin{align} & \large x \leq y \; \Longrightarrow \; F(x) \leq F(y), \tag{F1} \\[5pt] & \large F(x+) = F(x),\quad F(x+) = \lim_{\ve \rightarrow 0} F(x+\ve), \tag{F2} \\[5pt] & \large F(-\infty) = 0,\quad F(+\infty) = 1. \tag{F3} \\ \end{align}

この様な, $F(x)$ が与えられたとき, $F(x)$ を分布函数とする正則確率測度 $P$ が唯ひとつ存在する. この $P$ をLebesgue-Stieltjes測度という.

$P$ を $\mathbb{R}^1$ の上の確率測度とし, $P$ の定義域 $\cD(P)$ が $\cB^1 = \cB(\mathbb{R}^1)$ と一致するとき, $P$ を $\mathbb{R}^1$ の上のBorel確率測度という. また, このLebesgue拡大は必ず存在し, 拡大したもの ( 完備化したもの ) を正則確率測度という.

$P$ を $\mathbb{R}^1$ の上のBorel確率測度とするとき,

\begin{align}\large{ F(x) = P((-\infty, x]),\; x \in \mathbb{R}^1 }\end{align}

を $P$ の分布函数という.

証明

準備

左半区間 $(a, b]$ に対して,

\begin{align} p((a, b]) = F(b) - F(a),\; -\infty \leq a \lt b \leq \infty \label{defp} \end{align}

を定義する. また, 左半区間の有限個の直和全体を $\cA$ とすると, $\cA$ は加法族. なぜなら, あきらかに $\Omega \in \cA$ と, $A \in \cA \Rightarrow A^c \in \cA$ と, $A, B \in \cA \Rightarrow A \cup B \in \cA$ とをみたすから.

いま,

\begin{align} A = \sum_{i = 1}^n I_i,\; I_i は左半区間 ( \sumは直和 ) \end{align}

に対し,

\begin{align} p(A) = \sum_{i = 1}^n p(I_i) \end{align}

と定義する. これは, 加法族の上に定義された初等確率測度であるので, 拡張定理より, $p$ が $\cA$ の上で共通点性をもてば, $p$ は $\sigma[\cA]$ つまり $\cB^1$ 上の確率測度に拡張することができる. そして, それをLebesgue拡大したもの $P$ が求めたかったLebesgue-Stieltjes測度となる.

ということで, $p$ の共通点性を示そう.

$p$ の共通点性

\begin{align} A_1 \supset A_2 \supset \cdots,\; A_n \in \cA,\; \alpha = \inf{p(A_n)} \gt 0 \end{align}

とする. 任意の有限左半区間 $I = (a, b]$ に対して, $J = (a+\ve, b]$ を作りその閉包 $\overline{J}$ をとると,

\begin{align} \overline{J} \subset I,\; 0 \lt p(I) - p(J) = F(a+\ve) - F(a). \end{align}

ここで, $F$ が右連続であるので $\ve$ をいくらでも小さくして $F(a+\ve)$ を $F(a)$ にいくらでも近づけることができる. もし, $I$ が無限区間であったとしても, 条件 ( F3 ) より, $J$ の端を十分に大きく ( もしくは小さく ) することで有限区間にとることができる.

今, $A_n \in \cA$ は, 左半区間の有限和であるので, その構成区間の各々に対して上のように $J_n$ をとり, その直和を $B_n$ とする. するともちろん,

\begin{align} \overline{B_n} \subset A_n \end{align}

でしかも, $p(A_n) - p(B_n)$ はいくらでも小さくできるので, 以降の便宜上

\begin{align} p(A_n) - p(B_n) \lt 2^{-n-1} \alpha \end{align}

となるように $\{ B_n \}$ を定めると,

\begin{align} &\; p(A_n) - p \left( \bigcap_{i=1}^n B_i \right) \\[5pt] = &\; p \left( A_n - \bigcap_{i=1}^n B_i \right) \notag \\[5pt] = &\; p \left( A_n \cap \left( \bigcap_{i=1}^n B_i \right)^c \right) \notag \\[5pt] = &\; p \left( A_n \cap \left( \bigcup_{i=1}^n B_i^c \right) \right) \notag \\[5pt] = &\; p \left( \bigcup_{i=1}^n \left( A_n \cap B_i^c \right) \right) \notag \\[5pt] = &\; p \left( \bigcup_{i=1}^n \left( A_n - B_i \right) \right) \notag \\[5pt] \color{red}{\leq} &\; p \left( \bigcup_{i=1}^n \left( A_i - B_i \right) \right) \notag \\[5pt] \leq &\; \sum_{i=1}^n p \left( A_i - B_i \right) \notag \\[5pt] \leq &\; \sum_{i=1}^n 2^{-i-1} \alpha \lt \frac{\alpha}{2} \notag \end{align}

となる. なお, 途中の $\color{red}{\leq}$ は $A_n$ が単調減少であることによる. 一方, 最初の仮定から $p(A_n) \geq \alpha$ であるから,

\begin{align} p\left( \bigcap_{i=1}^n B_i \right) \gt \frac{\alpha}{2}. \end{align}

これと, $p$ の定義\eqref{defp}より明らかに, $\bigcap_{i=1}^n B_i \neq \varnothing$. よって,

\begin{align} \bigcap_{i=1}^\color{red}{n} \overline{B_i} \neq \varnothing \end{align}

$\overline{B_i}$ は有界閉集合であるから, Cantorの共通点定理 ( 単調減少の区間列の共通部分は空集合ではない ) より,

\begin{align} \bigcap_{n=1}^\color{red}{\infty} \overline{B_n} \neq \varnothing. \end{align}

$A_n \supset \overline{B_n}$ なので,

\begin{align} \bigcap_{n=1}^\infty A_n \supset \bigcap_{n=1}^\infty \overline{B_n} \neq \varnothing \end{align}

より, $p$ の共通点性がいえた.

一意性

$\cA$ は 乗法系 ( $\pi$ 系 ) なので, $\cA$ のうえで $p_1 = p_2$ なら, $\sigma[\cA] = \cB^1$ のうえでも $p_1 = p_2$ であるということが, 確率測度に関する一致の定理よりわかる.

$\blacksquare$

感想・参考文献

感想

これで, かなり馴染み深い確率論との関連性がみえてきた. 分布函数というのが, いわゆる確率分布函数であろう. けれど, その存在を示すのに用いた定理は多く長い道のりだった.

参考文献

伊藤清 確率論 (岩波基礎数学選書)

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