伊藤『確率論』定理2.11
最終更新:2021/12/07
伊藤『確率論』定理2.11.
非専門家が書いています. 十分に批判的に読んで頂くようお願いいたします. 間違い・疑問点などあれば, ぜひコンタクトフォームへ連絡いただけると幸いです.
定理
分布を元とする集合 $\cM$ に対して, 以下2つは同等.
- $\cM$ の中の任意の無限列は, 収束部分列をもつ. ただし, 極限分布 $\in \cM$ とは限らない.
-
\begin{align} \large \lim_{a \rightarrow \infty} \inf_{\mu \in \cM} \mu[-a, a] = 1. \end{align}
証明
$\mathrm{(i)} \Longrightarrow \mathrm{(ii)}$
背理法を使う. まず, $\mathrm{(ii)}$ の否定は以下となる.
${}^\exists \ve_0 \gt 0$, ある $\cM$ の無限列 $\{\nu_n\}_{n=1}^{\infty}$ が存在して, $\nu_n[-n, n] \leq 1 - \ve_0$, $(n = 1, 2, \ldots)$.
証明 ( click )
$ \lim_{a \rightarrow \infty} \inf_{\mu \in \cM} \mu[-a, a] = 1 $ の否定は, 「$a$ をどれだけ大きくしても, 任意の $\mu \in \cM$, $\mu[-a, a]$ の下限と $1$ の間に $\ve_0$ 以上のギャップ ( 差 ) がある」といえる. つまり,
$a=1$ のとき, $\nu_1 \in \cM$, $\nu_1[-1, 1] \leq 1 - \ve_0$ なる $\nu_1$ がとれる,
$a=2$ のとき, $\nu_2 \in \cM$, $\nu_2[-2, 2] \leq 1 - \ve_0$ なる $\nu_2$ がとれる,
$\qquad \vdots$
$a=n$ のとき, $\nu_n \in \cM$, $\nu_n[-n, n] \leq 1 - \ve_0$ なる $\nu_n$ がとれる,
$\qquad \vdots$
このようにして, $\nu_1, \nu_2, \ldots$ という無限列が取れることがわかる.
$\square$
ここで, $\mathrm{(i)}$ が成立するなら, $\{\nu_n\}$ は収束部分列 $\nu_{n(k)} \rightarrow \nu$ をもつ. $l \geq k$ ならば,
となるように $k$ をとれる. ここで, $\nu$ の連続点 $\alpha_k$, $\beta_k$ をそれぞれ, $(-n(k), -n(k)+1)$ と $(n(k)-1, n(k))$ とからとると,
よって,
ここで, $\alpha_k$, $\beta_k$ としては連続点をとっているので, 定理2.10 $\mathrm{(i)} \Rightarrow \mathrm{(iii)}$が使える. なぜなら, $\nu_{n(l)}((\alpha_k, \beta_k]^\circ) = \nu_{n(l)}(\overline{(\alpha_k, \beta_k]})$ であり, また, $\nu_{n(l)} \rightarrow \nu \; (n \rightarrow \infty)$ であるから. これを使うと, $l \rightarrow \infty$ のとき,
sあらに, $k \rightarrow \infty$ として,
これは, $\nu$ が分布であることに矛盾する.
$\square$
$\mathrm{(ii)} \Longrightarrow \mathrm{(i)}$
$\mathrm{(ii)}$ の成立を仮定する. そして, $\{\mu_n\}_{n=1}^{\infty}$ を $\cM$ の中の任意の部分列とする. さらに, $\mathbb{R}^1$ の中に稠密な点列 $\{a_m\}_{m=1}^{\infty}$ をとる. また, $\mu_n$ の分布函数を $F_n$ と記す.
すると, $\{F_n(a_m)\}_{n=1}^{\infty}$ は無限列で,
つまり, 有界なのでBolzano-Weierstrassより, 全ての $a_m$ に対して $\{F_n\}$ の部分列 $\{F_{n(m, k)}, k=1, 2, \dots\}$ をとって
$F_{n(1, k)}(a_1) \longrightarrow \tilde{F}(a_1)$
$F_{n(2, k)}(a_2) \longrightarrow \tilde{F}(a_2)$
$\qquad \vdots$
もう少し詳しく書くと ( click )
$F_{n(1, 1)}(a_1),\; F_{n(1, 2)}(a_1),\; F_{n(1, 3)}(a_1),\; \ldots \longrightarrow \tilde{F}(a_1)$
$F_{n(2, 1)}(a_2),\; F_{n(2, 2)}(a_2),\; F_{n(2, 3)}(a_2),\; \ldots \longrightarrow \tilde{F}(a_2)$
$\qquad \vdots$
とできる ( なお, $n(m, k)$ は $m$, $k$ によって定まる $n$ ということ ) . しかも, $\{F_{n(m+1, k)}, \; k = 1, 2, \ldots\}$ を選ぶ際に $n(m+1, k)$ として $n(m, k)$ を選ぶ以前に選ばれた $n$ も含めることで,
となるようにできる. すると,
複雑なので, 以下に図示する.
図の解説(click)
$n$ のとり方より, ここで縦に同じ色の $n$ は, インデックスは違うけれど, 同じ値である. そして, また,
$F_{n(1, 1)}(a_1),\quad F_{n(1, 2)}(a_1),\quad F_{n(1, 3)}(a_1),\quad \ldots \rightarrow \tilde{F}(a_1)$
$F_{n(2, 1)}(a_2),\quad F_{n(2, 2)}(a_2),\quad F_{n(2, 3)}(a_2),\quad \ldots \rightarrow \tilde{F}(a_2)$
$F_{n(3, 1)}(a_3),\quad F_{n(3, 2)}(a_3),\quad F_{n(3, 3)}(a_3),\quad \ldots \rightarrow \tilde{F}(a_3)$
$\qquad \vdots$
を満たすように, $n$ はとられている.
すると, 対角線に $n(k, k)$ をみると, 式\eqref{diag}が成り立っていることがわかる. たとえば, $m = 2$ のとき, $n(1, 1), n(2, 2), n(3, 3), \ldots$ は必ず, $n(2, 1), n(2, 2), n(2, 3), \ldots$ と ( インデックスは違うものの ) 同じ値を通るからである.
明らかに, 分布函数の性質より,
仮定 $\mathrm{(ii)}$ と $\{a_m\}$ の稠密性より, ある $a_m \leq a_l$ があって, あらゆる $\ve \gt 0$ に対して,
( これは, $\mathrm{(ii)}$ によって, $F(a) - F(-a)$ を $a$ 大きくすることで, いくらでも $1$ に近づけられる. さらに, $\{a_m\}$ の稠密性より, $a$, $-a$ にいくらでも近い $a_l$, $a_m$ をとってこれるということで合っているか? )
いま,
よって, 左辺は $1$ となり, 加えて, $0 \leq \tilde{F} \leq 1$ より,
今,
とすれば, $F(x)$ は明らかに ( $\tilde{F}$ の性質より ) 分布函数の条件F1〜3をみたす. また, これに対応する分布を $\nu$ とする.
今, もし, $F$ の任意の連続点 $a$ で
が示されれば, $\nu_{n(k, k)} \rightarrow \nu$ となり証明は終わる ( 定理2.10 $\mathrm{(iv)} \Rightarrow \mathrm{(i)}$ ) .
$F$ の $a$ における連続性 ( という仮定 ) より,
とできる. また, $\{a_m\}$ の稠密性より,
なる $a_m$ がある. $F$ の定義より,
同様に,
よって,
$\square$
$\blacksquare$
感想・参考文献
感想
正直今まで一番難しかった. わかりにくい書き方しかできていないところもあると思う. また, いまだになにの役にたつ定理かわかっていない...
(i) ⇒ (ii) は収束の否定命題がわかっているとそれほど難しくない(このあたり参考文献2冊目がわかりやすい).
(ii) ⇒ (i) は理解に苦労した. 要約すると, (ii)成立仮定というもとで,
- 任意の部分列 $\{\mu_n\}$ に対して, 分布函数 $F_n$ での議論という方針をとる,
- 分布函数 $F_n$ の中から収束しそうな部分列 $F_{n(k, k)}$ を作る,
- 極限も分布函数となるか, これを分布 $\mu_{n(k, k)}$ に戻っても収束するかを確認する.
参考文献
伊藤清 確率論 (岩波基礎数学選書)
原・松永 イプシロン・デルタ論法 完全攻略