$ \newcommand\bm[1]{\boldsymbol{#1}} \newcommand\ve{\varepsilon} \newcommand\vecseq[3]{{#1}_{#2}, \ldots, {#1}_{#3}} \newcommand\cA{\mathcal{A}} \newcommand\cD{\mathcal{D}} \newcommand\cB{\mathcal{B}} \newcommand\cM{\mathcal{M}} $
 

伊藤『確率論』定理2.11

伊藤『確率論』定理2.11.


非専門家が書いています. 十分に批判的に読んで頂くようお願いいたします. 間違い・疑問点などあれば, ぜひコンタクトフォームへ連絡いただけると幸いです.

定理

分布を元とする集合 $\cM$ に対して, 以下2つは同等.

  1. $\cM$ の中の任意の無限列は, 収束部分列をもつ. ただし, 極限分布 $\in \cM$ とは限らない.
  2. \begin{align} \large \lim_{a \rightarrow \infty} \inf_{\mu \in \cM} \mu[-a, a] = 1. \end{align}

証明

$\mathrm{(i)} \Longrightarrow \mathrm{(ii)}$

背理法を使う. まず, $\mathrm{(ii)}$ の否定は以下となる.

${}^\exists \ve_0 \gt 0$, ある $\cM$ の無限列 $\{\nu_n\}_{n=1}^{\infty}$ が存在して, $\nu_n[-n, n] \leq 1 - \ve_0$, $(n = 1, 2, \ldots)$.

証明 ( click )

$ \lim_{a \rightarrow \infty} \inf_{\mu \in \cM} \mu[-a, a] = 1 $ の否定は, 「$a$ をどれだけ大きくしても, 任意の $\mu \in \cM$, $\mu[-a, a]$ の下限と $1$ の間に $\ve_0$ 以上のギャップ ( 差 ) がある」といえる. つまり,

$a=1$ のとき, $\nu_1 \in \cM$, $\nu_1[-1, 1] \leq 1 - \ve_0$ なる $\nu_1$ がとれる,
$a=2$ のとき, $\nu_2 \in \cM$, $\nu_2[-2, 2] \leq 1 - \ve_0$ なる $\nu_2$ がとれる,
$\qquad \vdots$
$a=n$ のとき, $\nu_n \in \cM$, $\nu_n[-n, n] \leq 1 - \ve_0$ なる $\nu_n$ がとれる,
$\qquad \vdots$

このようにして, $\nu_1, \nu_2, \ldots$ という無限列が取れることがわかる.

$\square$

ここで, $\mathrm{(i)}$ が成立するなら, $\{\nu_n\}$ は収束部分列 $\nu_{n(k)} \rightarrow \nu$ をもつ. $l \geq k$ ならば,

\begin{align} \nu_{n(l)}[-n(k), n(k)] \leq \nu_{n(l)}[-n(l), n(l)] \leq 1 - \ve_0 \end{align}

となるように $k$ をとれる. ここで, $\nu$ の連続点 $\alpha_k$, $\beta_k$ をそれぞれ, $(-n(k), -n(k)+1)$ と $(n(k)-1, n(k))$ とからとると,

\begin{align} (\alpha_k, \beta_k) \subset [-n(k), n(k)]. \end{align}

よって,

\begin{align} \nu_{n(l)}(\alpha_k, \beta_k] \leq \nu_{n(l)}[-n(k), n(k)] \lt 1 - \ve_0, \; (l = k, k+1, \ldots). \end{align}

ここで, $\alpha_k$, $\beta_k$ としては連続点をとっているので, 定理2.10 $\mathrm{(i)} \Rightarrow \mathrm{(iii)}$が使える. なぜなら, $\nu_{n(l)}((\alpha_k, \beta_k]^\circ) = \nu_{n(l)}(\overline{(\alpha_k, \beta_k]})$ であり, また, $\nu_{n(l)} \rightarrow \nu \; (n \rightarrow \infty)$ であるから. これを使うと, $l \rightarrow \infty$ のとき,

\begin{align} \nu(\alpha_k, \beta_k] \leq 1 - \ve_0. \end{align}

sあらに, $k \rightarrow \infty$ として,

\begin{align} \nu(-\infty, \infty) \leq 1 - \ve_0. \end{align}

これは, $\nu$ が分布であることに矛盾する.

$\square$

$\mathrm{(ii)} \Longrightarrow \mathrm{(i)}$

$\mathrm{(ii)}$ の成立を仮定する. そして, $\{\mu_n\}_{n=1}^{\infty}$ を $\cM$ の中の任意の部分列とする. さらに, $\mathbb{R}^1$ の中に稠密な点列 $\{a_m\}_{m=1}^{\infty}$ をとる. また, $\mu_n$ の分布函数を $F_n$ と記す.

すると, $\{F_n(a_m)\}_{n=1}^{\infty}$ は無限列で,

\begin{align} 0 \leq F_n(a_m) \leq 1,\; n, m = 1, 2, \ldots, \end{align}

つまり, 有界なのでBolzano-Weierstrassより, 全ての $a_m$ に対して $\{F_n\}$ の部分列 $\{F_{n(m, k)}, k=1, 2, \dots\}$ をとって

$F_{n(1, k)}(a_1) \longrightarrow \tilde{F}(a_1)$
$F_{n(2, k)}(a_2) \longrightarrow \tilde{F}(a_2)$
$\qquad \vdots$

もう少し詳しく書くと ( click ) $F_{n(1, 1)}(a_1),\; F_{n(1, 2)}(a_1),\; F_{n(1, 3)}(a_1),\; \ldots \longrightarrow \tilde{F}(a_1)$
$F_{n(2, 1)}(a_2),\; F_{n(2, 2)}(a_2),\; F_{n(2, 3)}(a_2),\; \ldots \longrightarrow \tilde{F}(a_2)$
$\qquad \vdots$

とできる ( なお, $n(m, k)$ は $m$, $k$ によって定まる $n$ ということ ) . しかも, $\{F_{n(m+1, k)}, \; k = 1, 2, \ldots\}$ を選ぶ際に $n(m+1, k)$ として $n(m, k)$ を選ぶ以前に選ばれた $n$ も含めることで,

\begin{align} \{ F_{n(m+1, k)}, \; k = 1, 2,\ldots \} \subset \{ F_{n(m, k)},\; k = 1, 2, \ldots \} \end{align}

となるようにできる. すると,

\begin{align} F_{n(k, k)}(a_m) \longrightarrow \tilde{F}(a_m) \quad (k \rightarrow \infty). \label{diag} \end{align}

複雑なので, 以下に図示する.

name
図の解説(click)

$n$ のとり方より, ここで縦に同じ色の $n$ は, インデックスは違うけれど, 同じ値である. そして, また,

$F_{n(1, 1)}(a_1),\quad F_{n(1, 2)}(a_1),\quad F_{n(1, 3)}(a_1),\quad \ldots \rightarrow \tilde{F}(a_1)$
$F_{n(2, 1)}(a_2),\quad F_{n(2, 2)}(a_2),\quad F_{n(2, 3)}(a_2),\quad \ldots \rightarrow \tilde{F}(a_2)$
$F_{n(3, 1)}(a_3),\quad F_{n(3, 2)}(a_3),\quad F_{n(3, 3)}(a_3),\quad \ldots \rightarrow \tilde{F}(a_3)$
$\qquad \vdots$

を満たすように, $n$ はとられている.

すると, 対角線に $n(k, k)$ をみると, 式\eqref{diag}が成り立っていることがわかる. たとえば, $m = 2$ のとき, $n(1, 1), n(2, 2), n(3, 3), \ldots$ は必ず, $n(2, 1), n(2, 2), n(2, 3), \ldots$ と ( インデックスは違うものの ) 同じ値を通るからである.


明らかに, 分布函数の性質より,

\begin{align} 0 \leq \tilde{F}(a_m) \leq 1,\quad \tilde{F}(a_m) \leq \tilde{F}(a_l) \quad (a_m \leq a_l). \end{align}

仮定 $\mathrm{(ii)}$ と $\{a_m\}$ の稠密性より, ある $a_m \leq a_l$ があって, あらゆる $\ve \gt 0$ に対して,

\begin{align} F_n(a_m) - F_n(a_l) \gt 1 - \ve, \quad n = 1, 2, \ldots \end{align}

( これは, $\mathrm{(ii)}$ によって, $F(a) - F(-a)$ を $a$ 大きくすることで, いくらでも $1$ に近づけられる. さらに, $\{a_m\}$ の稠密性より, $a$, $-a$ にいくらでも近い $a_l$, $a_m$ をとってこれるということで合っているか? )

いま,

\begin{align} \tilde{F}(\infty) - \tilde{F}(-\infty) \geq \tilde{F}(a_l) - \tilde{F}(a_m) \geq 1 - \ve. \end{align}

よって, 左辺は $1$ となり, 加えて, $0 \leq \tilde{F} \leq 1$ より,

\begin{align} \tilde{F}(\infty) = 1, \quad \tilde{F}(-\infty) = 0. \end{align}

今,

\begin{align} F(x) = \inf_{a_m \gt x} \tilde{F}(a_m) \end{align}

とすれば, $F(x)$ は明らかに ( $\tilde{F}$ の性質より ) 分布函数の条件F1〜3をみたす. また, これに対応する分布を $\nu$ とする.

今, もし, $F$ の任意の連続点 $a$ で

\begin{align} G_k(a) \equiv F_{n(k, k)}(a) \longrightarrow F(a) \quad (k \rightarrow \infty) \end{align}

が示されれば, $\nu_{n(k, k)} \rightarrow \nu$ となり証明は終わる ( 定理2.10 $\mathrm{(iv)} \Rightarrow \mathrm{(i)}$ ) .

$F$ の $a$ における連続性 ( という仮定 ) より,

\begin{align} {}^\forall \ve \gt 0, \; {}^\exists \delta = \delta(\ve) \gt 0, \; F(a) - F(a - \delta) \lt \ve \end{align}

とできる. また, $\{a_m\}$ の稠密性より,

\begin{align} a - \delta \lt a_m \lt a \end{align}

なる $a_m$ がある. $F$ の定義より,

\begin{align} F(a) - \ve \lt F(a - \delta) \leq \tilde{F}(a_m) = \lim_{k \rightarrow \infty} G_k(a_m) \leq \liminf_{k \rightarrow \infty} G_k(a). \end{align}

同様に,

\begin{align} F(a) + \ve \gt \tilde{F}(a_l) = \lim_{k \rightarrow \infty} G_k(a_l) \geq \limsup_{k \rightarrow \infty} G_k(a). \end{align}

よって,

\begin{align} F(a) \leq \liminf_{k \rightarrow \infty} G_k(a),\quad F(a) \geq \limsup_{k \rightarrow \infty} G_k(a) \\[5pt] \Longrightarrow F(a) = \lim_{k \rightarrow \infty} G_k(a) \notag \end{align}

$\square$

$\blacksquare$

感想・参考文献

感想

正直今まで一番難しかった. わかりにくい書き方しかできていないところもあると思う. また, いまだになにの役にたつ定理かわかっていない...

(i) ⇒ (ii) は収束の否定命題がわかっているとそれほど難しくない(このあたり参考文献2冊目がわかりやすい).

(ii) ⇒ (i) は理解に苦労した. 要約すると, (ii)成立仮定というもとで,

  1. 任意の部分列 $\{\mu_n\}$ に対して, 分布函数 $F_n$ での議論という方針をとる,
  2. 分布函数 $F_n$ の中から収束しそうな部分列 $F_{n(k, k)}$ を作る,
  3. 極限も分布函数となるか, これを分布 $\mu_{n(k, k)}$ に戻っても収束するかを確認する.

参考文献

伊藤清 確率論 (岩波基礎数学選書)

原・松永 イプシロン・デルタ論法 完全攻略

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