確率測度の直積の存在と一意性 ( 可算個バージョン )
最終更新:2021/11/21
確率測度の拡張定理の応用3. 可算個の ( つまり無限個も許す ) 確率測度の直積の存在と一意性について. 証明は略証にとどめて, 適用例 ( 伊藤『確率論』例題2.1 ) を示す.
非専門家が書いています. 十分に批判的に読んで頂くようお願いいたします. 間違い・疑問点などあれば, ぜひコンタクトフォームへ連絡いただけると幸いです.
定義
$P_1, P_2, \ldots$ をそれぞれ $\Omega_1, \Omega_2, \ldots$ 上の確率測度とする.
としたとき, 射影 $\pi_n : \Omega \rightarrow \Omega_n$ を $n$ 射影という.
$\Omega$ 上の集合族
で生成される $\sigma$-加法族を
とし, これを $\cD(P_n)$ の積 $\sigma$-加法族と呼ぶ.
今, $\Omega$ 上の確率測度 $P$ の定義域 $\prod_{n=1}^\infty \cD(P_n)$ で
が成立するとき, $P$ を $P_n$ の直積確率測度といい,
とあらわす.
命題
statement
上に記述したような直積が, 存在し, 一意である.
略証
i 一意性
$\Omega$ の部分集合で,
の形で書けるものの全体を $\cI$ とする.
直積 $P$ の存在は未だ示していないものの, 存在するとすれば既に定義したように, \eqref{def} が計算できるので値 ( 測度 ) が定まる. この, ( $P$ があるとするときの ) 一意性を示すには, 一致の定理を使えば良い.
明らかに, $\cI$ は乗法系であり, $\sigma[\cI]$ は, 定義より $P$ の定義域 $\prod_{n=1}^\infty \cD(P_n)$ と一致するので,
ii 存在
$\cI$ の元の有限直和で表される集合全体を $\cA$ とする.
$\cA$ は加法族で,
と定義することで, $P$ を $\cA$ 上の初等確率測度に拡張できる.
あとは, $\cA$ の中の減少列が共通点性をもつことを示せば, $\sigma[\cA]$ すなわち $\prod_{n=1}^\infty \cD(P_n)$ 上の確率測度に拡張される ( 確率測度の拡張定理 ) .
$\square$
例題
上の命題を用いて, 小学生でも解けるような簡単な問題をクソ真面目にといてみよう. これは, 伊藤『確率論』例題2.3(i)であるが, 教科書には解答がないので, 間違いがあるかもしれないことを断っておく.
問い
さいころを無限に振ったとき, $n$ 回目に初めて $6$ の目が出る確率 $p_n$ を求めよ.
解答
方針としては, まず確率空間 $(\Omega, P)$ を定義し, 求めたい事象 $A_n \subset \Omega$ を求める. そして, \eqref{def} を用いて $p_n = P(A_n)$ を計算すれば良い.
$1$ 確率空間 $(\Omega, P)$ を定義
まず, 各回の試行 ( さいころを一回振るということ ) に対して,
とする ( なお, 2行めは $\Omega_i$ の冪集合 ) . これらを用いて, $\Omega = \prod_{n=1}^\infty \Omega_n$, $P = \prod_{n=1}^\infty P_n$ としたときの $(\Omega, P)$ が今回の問題における確率空間である.
$2$ $A_n \subset \Omega$ を求める
次に, 問われている事象を表す $A_n \subset \Omega$ を定めよう.
一気に無限回の試行を考えるのは難しいので, 一回づつの試行に注目する.
そのために, $i$ 射影 $\pi_i$ を使う.
$i = 1, 2, \ldots , n-1$ については, $1, \ldots, 5$ の目がでなくてはならないので,
が成立. 即ち,
同様に, $i=n$ に注目すると $n$ 回目は $6$ でないといけないので,
$i = n+1, \ldots, \infty$ 回については何でも良いので,
よって, $A_n$ は $\mathrm{cond. 1}$ かつ $\mathrm{cond. 2}$ かつ $\mathrm{cond. 3}$ をみたせば充分なので,
$3$ $p_n = P(A_n)$ を計算
$P$ の定義\eqref{def}より,
例えば,
である ( $\sqcup$ は直和 ) . よって,
感想・参考文献
感想
真面目に上の問いを解くに当たって, 今回紹介した定理がどのように役に立っているのか. さいころをふるという「一回の試行で~となる」という事象の確率を求めるために使う確率測度 $P_i$ と, 「無限回の試行で~となる」という事象の確率を求めるために使う確率測度 $P$ は同じではない. $P$ が対象とする事象の確率を計算するために, 今までは当たり前にように $P_i$ を掛けていたが, それが理論的に問題がないことを示すのがこの定理であろう.
なお, 今回 $P_i$ は見本空間が $1, 2, \ldots, 6$ であり, 有限試行なので上の定理が対象とする事象と同じではない.
同じような事象で考えたければ例えば,
というような問題に置き換えればいいと思う.
参考文献
伊藤清 確率論 (岩波基礎数学選書)