確率測度の直積の存在と一意性 ( 有限個バージョン )
最終更新:2021/10/23
確率測度の拡張定理の応用2. 確率測度の直積の存在と一意性を示す.
非専門家が書いています. 十分に批判的に読んで頂くようお願いいたします. 間違い・疑問点などあれば, ぜひコンタクトフォームへ連絡いただけると幸いです.
定義
$P_1$, $P_2$ をそれぞれ $\Omega_1$, $\Omega_2$ 上の確率測度とし, $\Omega = \Omega_1 \times \Omega_2$ ( 直積 ) とする. 積 $\sigma$-加法族 $\cD(P_1) \times \cD(P_2)$ を定義域とする $\Omega$ 上の確率測度 $P$ で,
をみたすものを, $P_1$, $P_2$ の 直積測度 $P_1 \times P_2$ といい,
を, 速度空間 $(\Omega_1, P_1)$, $(\Omega_2, P_2)$ の直積 といいう.
命題
上に記述したような直積が, 存在し, 一意である.
証明
方針
「一意性はまだしも, 直積は上で定義してるんやからもう存在してるやん」と思うかもしれないけれど, しっかり直積測度が測度の性質を満たしているかとか, 定義域が $\sigma$-加法族になっているかとかを確認する必要がある. けれど, ここではそのようなことを直接ではなく, 確率測度の拡張定理を使って示す.
一意性, 存在の順に示そう.
一意性
$\Omega$ の部分集合 $B_1 \times B_2$, $B_i \in \cD(P_1)$, $i = 1, 2$ 全体を $\cI$ とする. 明らかに, $I_1, I_2 \in \cI$ ならば $I_1 \cap I_2 \in \cI$ なので, $\cI$ は乗法系 ( $\pi$-系 ) . よって, 確率測度の一致の定理より,
であり, 一意性がいえた.
存在
確率測度の拡張定理を使うために,
- $\cI$ 上の初等確率測度を作り,
- 確率測度の拡張定理により $\sigma[\cI]$ 上の確率測度 $P$ に拡張,
i
まず, 以下のような集合函数を定義する.
そして,
とすれば, $p$ は $\cA$ 上の初等確率測度となる. なぜなら, $\cA$ は明らかに加法族だし, $p$ は $\cA$ 上で(p.1), (p.2), (p.3)をみたす.
ii
$p$ が共通点性をもつことを示せば拡張定理が適用できる.
$\cA$ の定義より, $\cA$ の元 $A$ は,
と書ける. このとき, $B_{2, i}$ として $\varnothing$ となるものも許すと, $B_{1, i}$ が互いに素で,
とすることができる ( ように $i = 1, 2, \ldots$ をとることができる ) .
今, $p(A) \geq \alpha \gt 0$ とする. また, $P_2(B_2, i)\geq \alpha/2$ ( 条件Aとする ) をみたす $i$ を選んできて ( そのような $i$ は $r$ 個あるとする ) , 最初の $r$ 個が条件Aをみたす $i$ となるように $i = 1, 2, \ldots$ を並び替える. すると,
とかける. 上記の並べ替えより明らかに,
また, もとより $P_2(B_{2, i}) \leq P_2(\Omega_2) = 1$ なので,
よって,
がいえた.
さて, いよいよ共通点性を示す. 今,
とする. $\cA$ の中の減少列
が, $p(A^{(n)}) \geq \alpha \gt 0$ をみたすとすると,
も当然なりたち, \eqref{eq1}より, これらの $P_1$ 測度は $\geq \alpha / 2$ である. したがって ( また, 減少列なので ) ,
すなわち, この交わり $\color{red}{\bigcap}$ は空でないので, ある一点 $\omega_1 \in \bigcap_{n=1}^\infty A_1^{(n)} (\alpha)$ をとることができる.
各 $n$ について,
の $P_2$ 測度が $\geq \alpha/2$ であることは, 条件Aより決まっている. さらに, $\{ A^{(n)} \}$ が減少列だったので, $\{ A^{(n)} \mid_{\omega_1} \}$ も減少列, つまり先ほどと同様に
よって, ある一点 $\omega_2 \in \bigcap_{n=1}^\infty A^{(n)} \mid_{\omega_1}$ をとってくることができて, 少なくとも一点 $(\omega_1, \omega_2)$ が $\{ A^{(n)} \}$ の共通点となる.
これで, 共通点性を示せたので確率測度の拡張定理が使える.
$\blacksquare$
感想・参考文献
感想
当たり前のような事実やけど, しっかり示すとなると大変だということを痛感した.
これで, 有限個の直積については存在と一意性が示せた. では, 可算個の場合 ( 無限個とか ) の場合はどうだろう. 次回はこれをとりあげる.
参考文献
伊藤清 確率論 (岩波基礎数学選書)