$ \newcommand\bm[1]{\boldsymbol{#1}} \newcommand\ve{\varepsilon} \newcommand\vecseq[3]{{#1}_{#2}, \ldots, {#1}_{#3}} \newcommand\cA{\mathcal{A}} \newcommand\cD{\mathcal{D}} \newcommand\cB{\mathcal{B}} \newcommand\cM{\mathcal{M}} \newcommand\cI{\mathcal{I}} $
 

確率測度の直積の存在と一意性 ( 可算個バージョン )

確率測度の拡張定理の応用3. 可算個の ( つまり無限個も許す ) 確率測度の直積の存在と一意性について. 証明は略証にとどめて, 適用例 ( 伊藤『確率論』例題2.1 ) を示す.


非専門家が書いています. 十分に批判的に読んで頂くようお願いいたします. 間違い・疑問点などあれば, ぜひコンタクトフォームへ連絡いただけると幸いです.

定義

$P_1, P_2, \ldots$ をそれぞれ $\Omega_1, \Omega_2, \ldots$ 上の確率測度とする.

\begin{align}\large{ \Omega = \prod_{n=1}^\infty \Omega_n = \Omega_1 \times \Omega_2 \times \cdots \times \Omega_n \times \cdots }\end{align}

としたとき, 射影 $\pi_n : \Omega \rightarrow \Omega_n$ を $n$ 射影という.

$\Omega$ 上の集合族

\begin{align}\large{ \pi_n^{-1}(B_n),\; B_n \in \cD(P_n),\; n = 1, 2, \ldots }\end{align}

で生成される $\sigma$-加法族を

\begin{align}\large{ \prod_{n=1}^\infty \cD(P_n) = \cD(P_1) \times \cD(P_2) \times \cdots }\end{align}

とし, これを $\cD(P_n)$ の積 $\sigma$-加法族と呼ぶ.

今, $\Omega$ 上の確率測度 $P$ の定義域 $\prod_{n=1}^\infty \cD(P_n)$ で

\begin{align} \large P \left( \bigcap_{i=1}^n \pi_i^{-1}(B_i) \right) = \prod_{i=1}^n P_i(B_i), \label{def} \\[8pt] \large B_i \in \cD(P_i),\; i = 1, \ldots ,n,\; n = 1, 2, \ldots \notag \end{align}

が成立するとき, $P$ を $P_n$ の直積確率測度といい,

\begin{align}\large{ P = \prod_{n=1}^\infty P_n = P_1 \times P_2 \times \cdots }\end{align}

とあらわす.

命題

statement

上に記述したような直積が, 存在し, 一意である.

略証

  i   一意性
$\Omega$ の部分集合で,

\begin{align} \bigcap_{i=1}^n \pi_i^{-1}(B_i) = B_1 \times B_2 \times \cdots \times B_n \times \Omega_{n+1} \times \cdots \end{align}

の形で書けるものの全体を $\cI$ とする.

直積 $P$ の存在は未だ示していないものの, 存在するとすれば既に定義したように, \eqref{def} が計算できるので値 ( 測度 ) が定まる. この, ( $P$ があるとするときの ) 一意性を示すには, 一致の定理を使えば良い.

明らかに, $\cI$ は乗法系であり, $\sigma[\cI]$ は, 定義より $P$ の定義域 $\prod_{n=1}^\infty \cD(P_n)$ と一致するので,

\begin{align} P_1 = P_2 \; \mathrm{on} \; \cI \quad \Longrightarrow \quad P_1 = P_2 \; \mathrm{on} \; \sigma[\cI] = \prod_{n=1}^\infty \cD(P_n). \end{align}

  ii   存在
$\cI$ の元の有限直和で表される集合全体を $\cA$ とする. $\cA$ は加法族で,

\begin{align} P(B_1 \times B_2 \times \cdots \times B_n \times \Omega_{n+1} \times \cdots) = P_1(B_1) \cdots P_n(B_n) \end{align}

と定義することで, $P$ を $\cA$ 上の初等確率測度に拡張できる.

あとは, $\cA$ の中の減少列が共通点性をもつことを示せば, $\sigma[\cA]$ すなわち $\prod_{n=1}^\infty \cD(P_n)$ 上の確率測度に拡張される ( 確率測度の拡張定理 ) .

$\square$

例題

上の命題を用いて, 小学生でも解けるような簡単な問題をクソ真面目にといてみよう. これは, 伊藤『確率論』例題2.3(i)であるが, 教科書には解答がないので, 間違いがあるかもしれないことを断っておく.

問い

さいころを無限に振ったとき, $n$ 回目に初めて $6$ の目が出る確率 $p_n$ を求めよ.

解答

方針としては, まず確率空間 $(\Omega, P)$ を定義し, 求めたい事象 $A_n \subset \Omega$ を求める. そして, \eqref{def} を用いて $p_n = P(A_n)$ を計算すれば良い.

  $1$   確率空間 $(\Omega, P)$ を定義
まず, 各回の試行 ( さいころを一回振るということ ) に対して,

\begin{align} & \Omega_i = \{1, 2, 3, 4, 5, 6\}, \\[5pt] & \cD(P_i) = \mathcal{P}(\Omega_i), \notag \\[5pt] & P_i(\{1\}) = \frac{1}{6},\; P_i(\{2\}) = \frac{1}{6},\; \ldots,\; P_i(\{6\}) = \frac{1}{6} \notag \end{align}

とする ( なお, 2行めは $\Omega_i$ の冪集合 ) . これらを用いて, $\Omega = \prod_{n=1}^\infty \Omega_n$, $P = \prod_{n=1}^\infty P_n$ としたときの $(\Omega, P)$ が今回の問題における確率空間である.

  $2$   $A_n \subset \Omega$ を求める
次に, 問われている事象を表す $A_n \subset \Omega$ を定めよう. 一気に無限回の試行を考えるのは難しいので, 一回づつの試行に注目する. そのために, $i$ 射影 $\pi_i$ を使う. $i = 1, 2, \ldots , n-1$ については, $1, \ldots, 5$ の目がでなくてはならないので,

\begin{align} \pi_i(A_n) = \{\{1\}, \ldots, \{5\}\}, \quad i = 1, \ldots, n-1 \end{align}

が成立. 即ち,

\begin{align} A_n \subset \bigcap_{i=1}^{n-1} \pi^{-1}_i(\{1\}, \ldots, \{5\}). \tag{cond. 1} \end{align}

同様に, $i=n$ に注目すると $n$ 回目は $6$ でないといけないので,

\begin{align} A_n \subset \pi^{-1}_n(\{6\}). \tag{cond. 2} \end{align}

$i = n+1, \ldots, \infty$ 回については何でも良いので,

\begin{align} A_n \subset \bigcap_{i=n+1}^\infty \pi^{-1}_i(\Omega_i). \tag{cond. 3} \end{align}

よって, $A_n$ は $\mathrm{cond. 1}$ かつ $\mathrm{cond. 2}$ かつ $\mathrm{cond. 3}$ をみたせば充分なので,

\begin{align} A_n = \bigcap_{i=1}^{n-1} \pi^{-1}_i(\{1\}, \ldots, \{5\}) \cap \pi^{-1}_n(\{6\}) \cap \bigcap_{i=n+1}^\infty \pi^{-1}_i(\Omega_i). \end{align}

  $3$   $p_n = P(A_n)$ を計算
$P$ の定義\eqref{def}より,

\begin{align} P(A_n) = \prod_{i=1}^{n-1} P_i(\{1\}, \ldots, \{5\}) P_n(\{6\}) \prod_{i=n+1}^\infty P_i(\{1\}, \ldots, \{6\}). \end{align}

例えば,

\begin{align} P_i(\{1\}, \ldots, \{5\}) &= P_i(\{1\} \sqcup \cdots \sqcup \{5\}) \\[5pt] &= P_i(\{1\}) + P_i(\{2\}) + \cdots + P_i(\{1\}) \notag \\[5pt] &= \frac{5}{6}. \notag \end{align}

である ( $\sqcup$ は直和 ) . よって,

\begin{align} P(A_n) &= \left( \frac{5}{6} \right)^{n-1} \cdot \left( \frac{1}{6} \right)^{1} \cdot 1 \times 1 \times \cdots \\[5pt] &= \frac{1}{6} \left( \frac{5}{6} \right)^{n-1}. \notag \end{align}

感想・参考文献

感想

真面目に上の問いを解くに当たって, 今回紹介した定理がどのように役に立っているのか. さいころをふるという「一回の試行で~となる」という事象の確率を求めるために使う確率測度 $P_i$ と, 「無限回の試行で~となる」という事象の確率を求めるために使う確率測度 $P$ は同じではない. $P$ が対象とする事象の確率を計算するために, 今までは当たり前にように $P_i$ を掛けていたが, それが理論的に問題がないことを示すのがこの定理であろう.

なお, 今回 $P_i$ は見本空間が $1, 2, \ldots, 6$ であり, 有限試行なので上の定理が対象とする事象と同じではない. 同じような事象で考えたければ例えば,

「ボールを無限回投げたとき, $n$ 回目に初めて $10 \mathrm{\,m}$ 以上の飛距離が出る確率を求めよ.」

というような問題に置き換えればいいと思う.

参考文献

伊藤清 確率論 (岩波基礎数学選書)

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