伊藤『確率論』§3.1 可分完全確率測度のまとめ
最終更新:2022/02/20
伊藤『確率論』§3.1 可分完全確率測度 のまとめ.
非専門家が書いています. 十分に批判的に読んで頂くようお願いいたします. 間違い・疑問点などあれば, ぜひコンタクトフォームへ連絡いただけると幸いです.
定義
完全
- $\mu$ が $S$ の上の確率測度,
- $f$ が任意の $\mu$ 可測写像 $f : S \to \mathbb{R}^1$
分離族
$S$ 上の集合族 $\cA$ に関して, 「$\cA$ は分離族」, もしくは 「$\cA$ が $S$ を 分離する」とは, 任意の $s_1, s_2 \in S$ $(s_1 \neq s_2)$ に対して或る $A \in \cA$ が存在して, $1_A(s_1) \neq 1_A(s_2)$ となること ( $1_A$ は $A$ の指示函数 ) .
なお, 「$\cA$ が分離族 $\Leftrightarrow$ $\sigma[\cA]$ が分離族」が成り立つ ( $\sigma[\cA]$ は $\cA$ で生成される $\sigma$ 加法族 ) .
可分
$\mu$ を $S$ 上の完備確率測度とする. もし, $\mu$ の定義域 $\cD(\mu)$ が可算分離族を含むなら, $\mu$ 或いは $(S, \mu)$ を 可分という.
補題3.1
statement
$T \subset \mathbb{R}^1$, $\mu$ は $T$ の上の完備確率測度,
$i$ は恒等写像 $i : T \to \real^1$,
$\nu$ は像測度 $\nu = \mu i^{-1}$
とする. このとき, 以下が成り立つ.
$\mu$ が $K$ 正則 $\Longleftrightarrow$ $\nu$ が $K$ 正則
証明
以下の3つの命題を用いて示すことができる.
-
$\mu$ が完備なので, その像測度 $\mu i^{-1} = \nu$ も完備 ( 参考 ) . いま,「完備可分距離空間の上の正則確率測度は $K$ 正則である」こと ( 補題2.1 ) と, $\real^1$ が完備可分距離空間であることとより, 「$\nu$ が正則 $\Leftrightarrow$ $\nu$ が $K$ 正則」.
-
$T$, $\real^1$ はともに Hausdorff空間なので, そこにおけるコンパクト集合は閉集合となる. いま, これを踏まえて $\mu$ が $K$ 正則であることの定義を書き換えると,
${}^\forall A \in \cD{(\mu)}$, ${}^\exists (K_n)_{n = 1}^{\infty} \subset A$ ( $K_n$ はコンパクト集合 ) , $\mu(K_n) \longrightarrow \mu(A)$
となる. 集合の列 $(K_n)$ がとれることが, 閉集合となることのご利益である ( あってるか? ) .
もちろん, 「$\nu$ が $K$ 正則」も同じように書き換えられる.
-
$\nu = \mu i ^{-1}$, $i^{-1}(A) = A \cap T$ より,
\begin{align} T \subset \cD(\nu),\; \nu(T) = \mu(A \cap T) = \mu(T) = 1 \end{align}また, $\mu = \nu |_T$ ( 制限 ) である.
これで, 準備は整ったので, これらを用いて定理を示そう. まず, Aより, 定理を示すには, 「$\mu$ が $K$ 正則 $\Leftrightarrow$ $\nu$ が $K$ 正則」を示せば十分だとわかる.
$\Longrightarrow$
${}^\forall A \in \cD(\nu)$ を考えたとき, $A \cap T \subset \cD(\mu)$ なので, $\mu$ の $K$ 正則性より,
いま,
なので, 結局,
であり, $\nu$ の $K$ 正則性がいえる.
$\Longleftarrow$
省略. $\Longrightarrow$と同様に言えるだろう.
$\blacksquare$
定理3.1
statement
- 可分完全確率測度は, $\real^1$ 上の或る部分集合上の $K$ 正則確率測度と強同型である.
- $\real^1$ 上の $K$ 正則確率測度は可分完全.
Iの証明
$\mu$ を $S$ 上の可分完全確率測度とする. 可分の定義より, $\cD(\mu) \supset$ 可算分離族 $\cA = \{A_1, A_2, \ldots \}$ である. 今, 函数 $f : S \to \real$ を
と定義する. つまり,
ということで, $f(s)$ を3進表記して例えば $0.0110\cdots$ であるならば,
ということになる.
今, 以下の i - iii がなりたつ.
-
$A_n \cD(\mu)$ なので, $1_{A_n} : S \to \real$ は $\mu$ 可測. よって, $f$も $\mu$ 可測.
-
$\mu$ が完全であるので, 像測度 $\nu = \mu f^{-1}$ は $\real^1$ 上で正則確率測度.
-
$f$ の定義と, $\cD(\mu)$ が $\cA$ で分離されることとより, $s_1 \neq s_2 \Rightarrow f(s_1) \neq f(s_2)$, つまり $f$ は単射. よって, $f$ の値域を $T = f(S) \subset \real^1$ にせいげんしてやることで, 全単射である写像 $g : S \to T$ が作れる.
ここで, 写像 $\theta := \mu g^{-1}$ とすると, $g$ が全単射であるので, $\theta \approx \mu \; (g)$ という強同型がなりたつ.
さらに, 恒等写像 $i : T \to \real^1$ を用いて
とする. ここで, $\nu = \mu f^{-1}$ は $\real^1$ 上で正則確率測度なので, 先程示した補題3.1より, $\theta$ は $K$ 正則.
$\blacksquare$
IIの証明
$S \subset \real^1$, $\mu$ : $K$ 正則とする.
は, $S$ 上の可算分離族で, $\cA \subset \cD(\mu)$ であるので, $\mu$ は可分.
あとは, $\mu$ の完全性を示そう. そのため, 任意の $\mu$ 可測写像 $f : S \to \real^1$ をかんがえ, 恒等写像 $i : S \to \real^1$ をもちいて,
を定義する. 補題3.1より「 $\mu$ が $K$ 正則 $\Rightarrow$ $\mu_i$ は $\real^1$ で正則」である. $f : S \to \real^1$ を勝手に拡張して $f_i : \real^1 \to \real^1$ とすると,
よって, $f_i$ は $\mu$ 可測.
証明 ( click )
これは, つまり $f_i$ が 可測 $\cD(\mu) / \cB^1$ ということをいえばよい. $E \in \cB^1$ とすると,
$\square$
よって,
$\real^1$ は完備可分距離空間であるので, その上の正則確率測度は完全 ( 補題2.3 ) .
$\Longrightarrow$ $\mu_i f_i^{-1}$ すなわち $\mu f^{-1}$ は正則
$\Longrightarrow$ $\mu$ は完全.
$\blacksquare$
おまけ:定理3.1 $\!{}^*$
$\mu$ は $S$ 上の可分完全確率測度, かつ $\cA = \{ A_1, A_2, \ldots \} \subset \cD(\mu)$ は $S$ 上の分離族.
$\Longrightarrow$ $\mu$ は $\mu|_{\sigma[\cA]}$ の Lebesgue拡大.
定理3.2
statement
$\mu$ : $S$ 上の完全確率測度,
$f$ : $S \to T$
$\Longrightarrow$ $\nu = \mu f^{-1}$ も $T$ 上で完全.
つまり, 完全性は像測度に遺伝する.
証明
$g : T \to \real^1$ を $\nu$ 可測写像とすると, $h = g \circ f : S \to \real^1$ は $\mu$ 可測.
証明 ( click )
$\mu$ 可測とは, 可測 $\cD(\mu) / \cB^1$ ということで,
$\square$
また, $\mu$ は完全なので, $\mu h^{-1}$ は正則. さらに, $\mu h^{-1} = (\mu f^{-1}) g^{-1} = \nu g^{-1}$ なので, $\nu g^{-1}$ は正則. よって, $\nu g^{-1}$ は正則.
いま, $g$ は任意の $\nu$ 可測写像だったので, これは $\nu$ も完全であることにほかならない.
$\blacksquare$
感想・参考文献
感想
ここのパートのせいでウェブサイト更新が一ヶ月滞ってしまった. 難しいというより, なんのための定理なのかよくわからず, モチベーションが上がらないという感じ. でも, イメージが沸かない分, 定義にのっとって淡々と証明を追うよい練習になった.
参考文献
伊藤清 確率論 (岩波基礎数学選書)