$ \newcommand\bm[1]{\boldsymbol{#1}} \newcommand\ve{\varepsilon} \newcommand\vecseq[3]{{#1}_{#2}, \ldots, {#1}_{#3}} \newcommand\cA{\mathcal{A}} \newcommand\cD{\mathcal{D}} \newcommand\cB{\mathcal{B}} \newcommand\cM{\mathcal{M}} \newcommand\real{\mathbb{R}} $
 

伊藤『確率論』§3.1 可分完全確率測度のまとめ

伊藤『確率論』§3.1 可分完全確率測度 のまとめ.


非専門家が書いています. 十分に批判的に読んで頂くようお願いいたします. 間違い・疑問点などあれば, ぜひコンタクトフォームへ連絡いただけると幸いです.

定義

完全

  • $\mu$ が $S$ の上の確率測度,
  • $f$ が任意の $\mu$ 可測写像 $f : S \to \mathbb{R}^1$
とする. このとき, 「像写像 $\mu f^{-1}$ が正則」であれば, $\mu$ は完全, また, 確率空間 $(S, \mu)$ は完全という.

分離族

$S$ 上の集合族 $\cA$ に関して, 「$\cA$ は分離族」, もしくは 「$\cA$ が $S$ を 分離する」とは, 任意の $s_1, s_2 \in S$ $(s_1 \neq s_2)$ に対して或る $A \in \cA$ が存在して, $1_A(s_1) \neq 1_A(s_2)$ となること ( $1_A$ は $A$ の指示函数 ) .

なお, 「$\cA$ が分離族 $\Leftrightarrow$ $\sigma[\cA]$ が分離族」が成り立つ ( $\sigma[\cA]$ は $\cA$ で生成される $\sigma$ 加法族 ) .

可分

$\mu$ を $S$ 上の完備確率測度とする. もし, $\mu$ の定義域 $\cD(\mu)$ が可算分離族を含むなら, $\mu$ 或いは $(S, \mu)$ を 可分という.

補題3.1

statement

$T \subset \mathbb{R}^1$, $\mu$ は $T$ の上の完備確率測度,
$i$ は恒等写像 $i : T \to \real^1$,
$\nu$ は像測度 $\nu = \mu i^{-1}$
とする. このとき, 以下が成り立つ.

$\mu$ が $K$ 正則 $\Longleftrightarrow$ $\nu$ が $K$ 正則

証明

以下の3つの命題を用いて示すことができる.

  1. $\mu$ が完備なので, その像測度 $\mu i^{-1} = \nu$ も完備 ( 参考 ) . いま,「完備可分距離空間の上の正則確率測度は $K$ 正則である」こと ( 補題2.1 ) と, $\real^1$ が完備可分距離空間であることとより, 「$\nu$ が正則 $\Leftrightarrow$ $\nu$ が $K$ 正則」.

  2. $T$, $\real^1$ はともに Hausdorff空間なので, そこにおけるコンパクト集合は閉集合となる. いま, これを踏まえて $\mu$ が $K$ 正則であることの定義を書き換えると,

    ${}^\forall A \in \cD{(\mu)}$, ${}^\exists (K_n)_{n = 1}^{\infty} \subset A$ ( $K_n$ はコンパクト集合 ) , $\mu(K_n) \longrightarrow \mu(A)$

    となる. 集合の列 $(K_n)$ がとれることが, 閉集合となることのご利益である ( あってるか? ) .

    もちろん, 「$\nu$ が $K$ 正則」も同じように書き換えられる.

  3. $\nu = \mu i ^{-1}$, $i^{-1}(A) = A \cap T$ より,

    \begin{align} T \subset \cD(\nu),\; \nu(T) = \mu(A \cap T) = \mu(T) = 1 \end{align}

    また, $\mu = \nu |_T$ ( 制限 ) である.

これで, 準備は整ったので, これらを用いて定理を示そう. まず, Aより, 定理を示すには, 「$\mu$ が $K$ 正則 $\Leftrightarrow$ $\nu$ が $K$ 正則」を示せば十分だとわかる.

  $\Longrightarrow$  
${}^\forall A \in \cD(\nu)$ を考えたとき, $A \cap T \subset \cD(\mu)$ なので, $\mu$ の $K$ 正則性より,

\begin{align} {}^\exists K_n \subset A \cap T,\; \mu(K_n) \to \mu(A \cap T). \end{align}

いま,

\begin{align} \nu(K_n) = \mu i^{-1}(K_n) = \mu(K_n \cap T) = \mu(K_n), \\[5pt] \nu(A) = \mu(A \cap T) \notag \end{align}

なので, 結局,

\begin{align} {}^\forall A \in \cD(\nu),\; {}^\exists K_n \subset A \; (\because A \cap T \subset A),\; \nu(K_n) \to \nu(A) \end{align}

であり, $\nu$ の $K$ 正則性がいえる.

  $\Longleftarrow$  
省略. $\Longrightarrow$と同様に言えるだろう.

$\blacksquare$

定理3.1

statement

  1. 可分完全確率測度は, $\real^1$ 上の或る部分集合上の $K$ 正則確率測度と強同型である.
  2. $\real^1$ 上の $K$ 正則確率測度は可分完全.

Iの証明

$\mu$ を $S$ 上の可分完全確率測度とする. 可分の定義より, $\cD(\mu) \supset$ 可算分離族 $\cA = \{A_1, A_2, \ldots \}$ である. 今, 函数 $f : S \to \real$ を

\begin{align} f(s) = \sum_{n=1}^{\infty} 3^{-n} 1_{A_n}(s),\; n = 1, 2, \ldots \end{align}

と定義する. つまり,

\begin{align} f(s) = \frac{1}{3}1_{A_1}(s) + \frac{1}{3^2}1_{A_2}(s) + \cdots \end{align}

ということで, $f(s)$ を3進表記して例えば $0.0110\cdots$ であるならば,

\begin{align} s \notin A_1, s \in A_2, s \in A_3, s \notin A_3 \ldots \end{align}

ということになる.

今, 以下の i - iii がなりたつ.

  1. $A_n \cD(\mu)$ なので, $1_{A_n} : S \to \real$ は $\mu$ 可測. よって, $f$も $\mu$ 可測.

  2. $\mu$ が完全であるので, 像測度 $\nu = \mu f^{-1}$ は $\real^1$ 上で正則確率測度.

  3. $f$ の定義と, $\cD(\mu)$ が $\cA$ で分離されることとより, $s_1 \neq s_2 \Rightarrow f(s_1) \neq f(s_2)$, つまり $f$ は単射. よって, $f$ の値域を $T = f(S) \subset \real^1$ にせいげんしてやることで, 全単射である写像 $g : S \to T$ が作れる.

ここで, 写像 $\theta := \mu g^{-1}$ とすると, $g$ が全単射であるので, $\theta \approx \mu \; (g)$ という強同型がなりたつ.

さらに, 恒等写像 $i : T \to \real^1$ を用いて

\begin{align} f &= i \circ g \\[5pt] \nu &= \mu f^{-1} = (\mu g^{-1}) \, i^{-1} = \theta \, i ^{-1} \notag \end{align}

とする. ここで, $\nu = \mu f^{-1}$ は $\real^1$ 上で正則確率測度なので, 先程示した補題3.1より, $\theta$ は $K$ 正則.

$\blacksquare$

IIの証明

$S \subset \real^1$, $\mu$ : $K$ 正則とする.

\begin{align} \cA = \{ (-\infty, r) \cap S \mid r \in \mathbb{Q} \} \end{align}

は, $S$ 上の可算分離族で, $\cA \subset \cD(\mu)$ であるので, $\mu$ は可分.

あとは, $\mu$ の完全性を示そう. そのため, 任意の $\mu$ 可測写像 $f : S \to \real^1$ をかんがえ, 恒等写像 $i : S \to \real^1$ をもちいて,

\begin{align} \mu_i = \mu \, i^{-1} \end{align}

を定義する. 補題3.1より「 $\mu$ が $K$ 正則 $\Rightarrow$ $\mu_i$ は $\real^1$ で正則」である. $f : S \to \real^1$ を勝手に拡張して $f_i : \real^1 \to \real^1$ とすると,

\begin{align} & \mu_i(\real^1 - S) \\[5pt] =\;& \mu \, i^{-1} (\real^1 - S) \notag \\[5pt] =\;& \mu(\real^1-S \cap S) \notag \\[5pt] =\;& \mu(\varnothing) \notag \\[5pt] =\;& 0. \end{align}

よって, $f_i$ は $\mu$ 可測.

証明 ( click )

これは, つまり $f_i$ が 可測 $\cD(\mu) / \cB^1$ ということをいえばよい. $E \in \cB^1$ とすると,

\begin{align} f_i^{-1}(E) &= f_i^{-1}(E \cap S + E \cap S^c) \\[5pt] &= f_i^{-1}(E \cap S) + f_i^{-1}(E \cap S^c) \notag \\[5pt] &= f_i^{-1}(E \cap S) \notag \\[5pt] &= f^{-1}(E \cap S) \in \cD(\mu) \notag \\[5pt] \end{align}

$\square$

よって,

\begin{align} \mu_i f_i^{-1} &= \mu \, i^{-1} f_i^{-1} \\[5pt] &= \mu(f_i \, i)^{-1} \notag \\[5pt] &= \mu f^{-1}. \notag \end{align}

$\real^1$ は完備可分距離空間であるので, その上の正則確率測度は完全 ( 補題2.3 ) .
$\Longrightarrow$ $\mu_i f_i^{-1}$ すなわち $\mu f^{-1}$ は正則
$\Longrightarrow$ $\mu$ は完全.

$\blacksquare$

おまけ:定理3.1 $\!{}^*$

$\mu$ は $S$ 上の可分完全確率測度, かつ $\cA = \{ A_1, A_2, \ldots \} \subset \cD(\mu)$ は $S$ 上の分離族.
$\Longrightarrow$ $\mu$ は $\mu|_{\sigma[\cA]}$ の Lebesgue拡大.

定理3.2

statement

$\mu$ : $S$ 上の完全確率測度,
$f$ : $S \to T$
$\Longrightarrow$ $\nu = \mu f^{-1}$ も $T$ 上で完全.

つまり, 完全性は像測度に遺伝する.

証明

$g : T \to \real^1$ を $\nu$ 可測写像とすると, $h = g \circ f : S \to \real^1$ は $\mu$ 可測.

証明 ( click )

$\mu$ 可測とは, 可測 $\cD(\mu) / \cB^1$ ということで,

\begin{align} \Gamma \in \cB^1 &\Rightarrow g^{-1} (\Gamma) \in \cD(\nu) \quad ( \because g \; は\; \nu \; 可測) \\[5pt] &\Rightarrow h^{-1}(\Gamma) = f^{-1}(g^{-1}(\Gamma)) \in \cD(\mu) \notag \end{align}

$\square$

また, $\mu$ は完全なので, $\mu h^{-1}$ は正則. さらに, $\mu h^{-1} = (\mu f^{-1}) g^{-1} = \nu g^{-1}$ なので, $\nu g^{-1}$ は正則. よって, $\nu g^{-1}$ は正則.

いま, $g$ は任意の $\nu$ 可測写像だったので, これは $\nu$ も完全であることにほかならない.

$\blacksquare$

感想・参考文献

感想

ここのパートのせいでウェブサイト更新が一ヶ月滞ってしまった. 難しいというより, なんのための定理なのかよくわからず, モチベーションが上がらないという感じ. でも, イメージが沸かない分, 定義にのっとって淡々と証明を追うよい練習になった.

参考文献

伊藤清 確率論 (岩波基礎数学選書)

この記事のTOP    BACK    TOP