一致の定理と零点の性質

解析函数の零点が集積しないという事実が美しいのでまとめたかったが, 一致の定理が要だったのでそちらも併せて記事にする. 解析函数の性質については, 証明なしに使う.

黒字は, そこそこに参考文献の裏付けがある. 青字は, 私によって埋められた行間など ( その分正確性に欠けうる ) . 非専門家が書いています. 十分に批判的に読んで頂くようお願いいたします. 間違い・疑問点などあれば, ぜひコンタクトフォームへ連絡いただけると幸いです.

準備:一致の定理

定理1

領域 $D$ で解析的な函数 $f$ に対して, 次は互いに同値.

  1. $D$ のある一点 $z_0$ に対して $f^{(n)} = 0 \; (n = 1, 2, \ldots)$.
  2. $D$ のある一点 $z_0$ の近傍で, $f$ は恒等的に $0$.
  3. $f$ は $D$ で恒等的に $0$.
注:「領域」とは, 複素平面上の連結開集合である.

証明

 (i) $\Longrightarrow$ (ii) 
点 $z_0$ のまわりの冪級数展開を,

\begin{align} f(z) = \sum_{n \geq 0} a_n (z - z_0)^n \notag \end{align}

とする. これは, 項別微分できて,

\begin{align} f(z) & = a_0 + a_1(z - z_0) + a_2(z - z_0)^2 + \cdots \notag \\[5pt] f^{\prime}(z) & = a_1 z + 2 a_2(z - z_0) + 3 a_3(z - z_0)^2 + \cdots \notag \\[5pt] & \qquad \qquad \qquad \vdots \notag \end{align}

となることから $z = z_0$ を代入していけば明らかに (ii) が成立することがわかる.

 (ii) $\Longrightarrow$ (iii) 
(ii)が成立するとき, $D$ の部分集合 $D^{\prime}$ を $D$ の点 $z$ で, その適当な近傍で $f$ が恒等的に $0$ となるものの全体とする. 少なくとも, $z_0 \in D^{\prime}$ であるので, $D^{\prime} \neq \emptyset$. また, 明らかに $D^{\prime}$ は開集合 ( 直感的には当然そう思うが, どうやったら厳密に示せるだろう? ) .

$D$ の点 $z$ が, $z \in \overline{D^{\prime}}$ ( バーは閉包 ) であれば, ( 解析函数は何回でも微分可能なので ) その $n$ 次導函数 $f^{(n)}$ は連続であり, $D^{\prime}$ では恒等的に $0$ ゆえに導函数も $0$ であることをふまえると, $f^{(n)} = 0 \; (n = 0, 1, \ldots)$ が成立. この事実と, 先に示した (i) $\Rightarrow$ (ii) から, $f$ はこの $z$ のある近傍で $0$ となる. つまり, $z \in D^{\prime}$. これらよりわかったことは, $z \in \overline{D^{\prime}} \Rightarrow z \in D^{\prime}$. これは, $D^{\prime}$ が閉じている, つまり $D^{\prime}$ の補集合 $D - D^{\prime}$ が開いていることを示す.

$D^{\prime}$ もその補集合 $D - D^{\prime}$ も開集合であることと, $D$ の連結性より, どちらか一方は $\emptyset$. $D^{\prime} \neq \emptyset$ はもとより判っているので, $D - D^{\prime} = \emptyset$. 則ち, $D = D^{\prime}$.

 (iii) $\Longrightarrow$ (i) 
これは, 自明である.

$\blacksquare$

系 ( 一致の定理, 解析接続の原理 )

領域 $D$ で解析的な函数 $f$, $g$ が $D$ の一点の近傍で等しければ, $f$ と $g$ は $D$ 上いたるとところ等しい.

証明

$f-g$ が $D$ のある一点の近傍で恒等的に $0$ なので, 定理1 (ii) $\Rightarrow$ (iii) より, $f-g$ は恒等的に $0$.

$\blacksquare$

定義
領域 $D$ で解析的な函数 $f$ に対して, $f(z) = 0$ をみたす $D$ の点のことを $f$ の「零点」という.

零点の性質

定理2

領域 $D$ で解析的かつ, 恒等的に $0$ ではない函数 $f$ の零点の集合は, $D$ 内に集積点を持たない.
換言:$f(z_0) = 0$, $z_0 \in D$ なら, $z_0$ の十分小さな近傍で $z \neq z_0 \Rightarrow f(z) \neq 0$. どんなに小さくても, $z_0$ のある近傍で $f(z) \neq 0$ が保証されているなら, $z_0$ に零点が集積しようがないことは容易に想像できる.

証明

$z_0$ の近傍で, $f$ の冪級数展開を $f(z) = \sum_{n \geq 0} a_n (z - z_0)^n$ とすれば, $a_n$ の全てが $0$ であることはありえない. なぜなら, 定理1より, 係数が全て $0$ であると恒等的に函数 $f$ は $0$ になってしまうから.

上記のことを踏まえ, 今, $a_0 = a_1 = \cdots a_{k-1} = 0$, $a_k \neq 0$ とすると, 冪級数 $f(z) = \sum_{n \geq k} a_n (z - z_0)^{n-k}$ は, $|z - z_0|$ が十分小さいとき収束し ( というか, 解析函数の冪級数展開なので収束するような $|z - z_0|$ が値があることが保証されている ) , $z = z_0$ ならば, $0$ とはならない. 従って, $f(z) = (z - z_0)^k \sum_{n \geq k} a_n (z - z_0)^{n-k}$ であるので, $|z - z_0|$ が十分小さいとき, $f(z)$ も $0$ とはならない.

$\blacksquare$

$f$ が領域 $D$ で解析的で, 恒等的に $0$ でなければ, $D$ 内の任意のコンパクト集合に含まれる $f$ の零点は高々有限個である.

証明

Bolzano-Weierstrassの定理より, コンパクト集合の零点が無限個あると, 集積点をもってしまう. これは, 定理2に反する.

$\blacksquare$

感想

我々工学系では, 複素積分に力をいれるため, こういった内容を習わないことも多いかもしれない. けれども, 面白い内容だし, 教えるといいとも思いつつ, 集合・位相の授業がない工学部では難しいのかなという気もする.

主な参考文献


新版 複素解析 (基礎数学)

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