$ \newcommand\bm[1]{\boldsymbol{#1}} \newcommand\ve{\varepsilon} \newcommand\vecseq[3]{{#1}_{#2}, \ldots, {#1}_{#3}} \newcommand\cA{\mathcal{A}} \newcommand\cD{\mathcal{D}} \newcommand\cB{\mathcal{B}} \newcommand\cM{\mathcal{M}} $
 

Lebesgue拡大(確率測度の完備化)

Lebesgue拡大(確率測度の完備化)の証明. 伊藤『確率論』p.49問xvに対する解答という形で証明する.


非専門家が書いています. 十分に批判的に読んで頂くようお願いいたします. 間違い・疑問点などあれば, ぜひコンタクトフォームへ連絡いただけると幸いです.

定理(伊藤『確率論』の問)

$P$ を確率測度, 確率空間は $(\Omega, \cD(P), P)$ とする. $P(N) = 0$ となる $P$-可測集合を $P$-零集合という. $P$-零集合の部分集合が全て $P$-可測(よって $P$-零)であるとき, $P$ を完備確率測度という.

任意の確率測度 $P$ に対して完備拡張は必ず存在し, しかもその中の最小の拡大が存在する. この拡張をLebesgue拡大という.

証明

方針

天下り的だが, 教科書のヒントを用いて,

\begin{align}\large{ \cD(Q) = \{ A \mid {}^\exists B_1, \;B_2 \in \cD(P),\; B_1 \subset A \subset B_2,\; P(B_2 - B_1) = 0 \} \\[5pt] Q(A) = P(B_1) }\end{align}

とすると, これがLebesgue拡大となっていることを示す. となると, 示すべき事は以下の4つである.

  1. $\cD(Q)$ は $\sigma$-加法族,
  2. $Q$ は確率測度,
  3. $(\Omega, \cD(Q), Q)$ が完備確率空間,
  4. これが, 完備拡張の中で最小.

1.$\cD(Q)$ は $\sigma$-加法族

$\sigma$-加法族の定義をひとつづつ確認していく.

  σ.1  
$\varnothing \in \cD(Q)$ は明らか.

  σ.2  
$A \in \cD(Q)$ とすると, $\cD(Q)$ の定義より

\begin{align} {}^\exists B_1, \;B_2 \in \cD(P),\; B_1 \subset A \subset B_2,\; P(B_2 - B_1) = 0 \end{align}

$\cD(P)$ は $\sigma$-加法族なので, $B_1^{\;c},\; B_2^{\;c} \in \cD(P)$ で, また,

\begin{align} B_2^{\;c} \subset A^{c} \subset B_1^{\;c} \label{eq_i}. \end{align}

今,

\begin{align} P(B_1^{\;c} - B_2^{\;c}) &= P(B_1^{\;c}) - P(B_2^{\;c}) \label{eq_ro} \\[5pt] &= P(\Omega - B_1) - P(\Omega - B_2) \notag \\[5pt] &= (1 - P(B_1)) - (1 - P(B_2)) \notag \\[5pt] &= P(B_2) - P(B_1) \notag \\[5pt] &= P(B_2 - B_1) \notag \\[5pt] &= 0 \notag \end{align}

であるので, 式\eqref{eq_i}, \eqref{eq_ro}より $A^{c}$ が $\cD(Q)$ の定義を満たしている, つまり $A^{c} \in \cD(Q)$.

  σ.3  
$A_n \in \cD(Q)$ とする. $A = \bigcup_{n=1}^{\infty} A_n \in \cD(Q)$ を示せば良い.

$A_n \in \cD(Q)$ より, 各 $n$ について

\begin{align} {}^\exists B_{1n}, \;B_{2n} \in \cD(P),\; B_{1n} \subset A_n \subset B_{2n},\; P(B_{2n} - B_{1n}) = 0 \end{align}

である. いま

\begin{align} B_1 = \bigcup_{n=1}^{\infty} B_{1n}, \quad B_2 = \bigcup_{n=1}^{\infty} B_{2n} \end{align}

と定義する. すると当然

\begin{align} B_1 \subset A \subset B_2 \end{align}

でありまた,

\begin{align} P(B_2 - B_1) &= P \left( \bigcup_{n=1}^{\infty} B_{2n} - \bigcup_{n=1}^{\infty} B_{1n} \right ) \\[5pt] &\leq P \left( \bigcup_{n=1}^{\infty}(B_{2n} - B_{1n}) \right) \notag \\[5pt] &\leq \sum_{n=1}^{\infty}P(B_{2n} - B_{1n}) \notag \\[5pt] &= 0 \end{align}

となる(1行目→2行目は簡単な集合論の考え方でわかる). これで, $\bigcup_{n=1}^{\infty} A_n \in \cD(Q)$ が示された.

条件 σ.1, σ.2, σ.3 が確認されたので $\cD(Q)$ の $\sigma$-加法性はOK.

$\square$

2.$Q$ は確率測度

確率測度の定義をひとつづつ確認していく.

  1  
もとより $P$ が確率測度で有るので, $P$ を用いて定義されている $Q$ についても $0 \leq Q(A) \leq \infty$ は明らか.

  2  
$A_n \in \cD(Q)$ で互いに素, $A = \bigcup_{n=1}^{\infty}$ とする.

$A_n \in \cD(Q)$ より, 各 $n$ について

\begin{align} {}^\exists B_{1n}, \;B_{2n} \in \cD(P),\; B_{1n} \subset A_n \subset B_{2n},\; P(B_{2n} - B_{1n}) = 0 \end{align}

である. いま

\begin{align} B_1 = \bigcup_{n=1}^{\infty} B_{1n}, \quad B_2 = \bigcup_{n=1}^{\infty} B_{2n} \end{align}

と定義する. すると

\begin{align} \sum_{n=1}^{\infty} Q(A_n) &= \sum_{n=1}^{\infty} P(B_{1n}) \\[5pt] &\color{red}{=} P \left( \bigcup_{n=1}^{\infty} B_{1n} \right) \notag \\[5pt] &= P(B_1) \notag \\[5pt] &\color{blue}{=} Q(A) \notag \end{align}

となる. 等式 $\color{red}{=}$ が成立するのは, $A_n$ が互いに素なので $B_{1n}$ も互いに素だから.
等式 $\color{blue}{=}$ が成立するのは, $A-B_1 \subset B_2 - B_1$, $P(B_2 - B_1) = 0$ だから.

  3  
$P(\Omega) = 1$ なので, $Q(\Omega)$ も $1$ となる.

これで, $Q$ が確率測度の定義を満たすことがわかった.

$\square$

3.$(\Omega, \cD(Q), Q)$ が完備確率空間

$N \subset A$, $Q(A) = 0$ とする. $\cD(Q)$ の定義より,

\begin{align} \cD(Q) &= \{ A \mid {}^\exists B_1, \;B_2 \in \cD(P),\; B_1 \subset A \subset B_2,\; P(B_2 - B_1) = 0 \} \\[5pt] Q(A) &= P(B_1) = 0 \notag \end{align}

また, $P(B_2) - P(B_1) = 0$ より, $P(B_2)$ も $0$.

いま, $B_1 = \{ \varnothing \}$ とすれば, $N \subset A \subset B_2$ なので, $B_1 \subset N \subset B_2$ でありまた, $P(B_2 - B_1) = 0$. よって, $N \in \cD(Q)$.

$\square$

4.完備拡張の中で最小

これ若干自信がないというか定性的です.

$\cD(Q)$ の定義

\begin{align} \cD(Q) = \{ A \mid {}^\exists B_1, \;B_2 \in \cD(P),\; B_1 \subset A \subset B_2,\; P(B_2 - B_1) = 0 \} \\[5pt] \end{align}

は, 全ての $B \in \cD(P)$ と, 任意の $P$-零集合の全ての部分集合を含む. しかも, このような $\sigma$-加法族 は上に示す $A$ を必ず含まなければならないので最小である.

$\square$

これで定理は示された.

$\blacksquare$

一般の測度の場合

伊藤ルベーグでは, 一般の測度の場合の完備化が以下のように記されている.

測度空間 $(\Omega, \cB, \mu)$ について, $E \subset \Omega$ のなかで

\begin{align}\large{ {}^\exists B,\; N \in \cB,\; E \ominus B \subset N,\; \mu(N) = 0 }\end{align}

なるものの全体を $\overline{\cB}$, また $\overline{\mu} = \mu(B)$ としたとき($\ominus$ は対称差), 確率空間 $(\Omega, \overline{\cB}, \overline{\mu})$ が最小の完備化となる.

感想・参考文献

感想

確率論の勉強をしているとよくつかわれる. とはいえ, 完備化の定義というより, いつでも必ず完備化できるという事実が重要なのだと思う.
というか練習問題としては難しすぎん? テレンス・タオのルベーグ積分でも(ヒント無しで!)完備化の存在が練習問題になってたし, これが普通なのか?

参考文献

伊藤 清 確率論 (岩波基礎数学選書)

伊藤 清三 ルベーグ積分入門(新装版) (数学選書)

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