$ \newcommand\bm[1]{\boldsymbol{#1}} \newcommand\ve{\varepsilon} \newcommand\vecseq[3]{{#1}_{#2}, \ldots, {#1}_{#3}} \newcommand\cA{\mathcal{A}} \newcommand\cD{\mathcal{D}} \newcommand\cB{\mathcal{B}} \newcommand\cM{\mathcal{M}} $
 

Lebesgue分解

Lebesgue分解の証明. 伊藤『確率論』定理2.9.


非専門家が書いています. 十分に批判的に読んで頂くようお願いいたします. 間違い・疑問点などあれば, ぜひコンタクトフォームへ連絡いただけると幸いです.

いくつかの定義

分布

$\mathbb{R}$ 上の正則確率測度を ( 一次元の ) 分布という.

以下, $\mu$, $\nu$ は分布とする.

不連続分布

$\mu(\{ a \}) \gt 0$ となる $a$ を $\mu$ の不連続点といい, 不連続点の集合を $D_\mu$ とかく. この集合は, 可算である. 特に, $\mu(D_\mu) = 1$ となる分布を純不連続分布という.

連続分布

$\mu(\{ a \}) = 0$ となる $a$ を $\mu$ の連続点といい, 連続点の集合を $C_\mu$ とかく. 特に, $\mu(C_\mu) = 1$ となる分布を連続分布という.

特異分布

$\lambda$ を Lebesgue測度とする.

\begin{align} \lambda(E) = 0 \Longrightarrow \mu(E) = 0 \end{align}

のとき, $\mu$ は絶対連続であるといい, 連続より強い. 連続であるが, 絶対連続でない分布を特異分布という.

定理2.9 Lebesgue分解

任意の分布は, 純不連続分布, 絶対連続分布, 特異分布の凸結合で表される

凸結合とは?

$\mu_1, \mu_2, \ldots$ を分布として,

\begin{align}\large{ \mu(E) = \sum_n c_n \mu_n (E),\; E \in \cB, \quad c_n \geq 0,\; \sum_n c_n = 1 }\end{align}

のとき, $\mu$ も分布となり, $\{ \mu_n \}$ の凸結合という.

証明

以下の順番で示す.

  1. $\mu$ が純不連続分布と連続分布の凸結合に,
  2. 連続分布が絶対連続分布と特異分布の凸結合に
なることを示す.

  i   $\mu$ が純不連続分布と連続分布の凸結合
$\mu$ を任意の分布とする. 任意のBorel集合 $E$ に対して

\begin{align} \nu_d(E) = \mu(E \cap D_\mu),\quad \nu_c(E) = \mu(E \cap C_\mu) \end{align}

を定義する. すると,

\begin{align} \mu(E \cap D_\mu) + \mu(E \cap C_\mu) = \mu(E \cap (D_\mu + C_\mu)) = \mu(E \cap \mathbb{R}) = \mu(E) \end{align}

より, $\mu = \nu_d + \nu_c$. よって,

\begin{align} \mu = \nu_d(\mathbb{R}) \frac{\nu_d}{\nu_d(\mathbb{R})} + \nu_c(\mathbb{R}) \frac{\nu_c}{\nu_c(\mathbb{R})} \end{align}

とおくと,

\begin{align} \nu_d(\mathbb{R}) + \nu_c(\mathbb{R}) = \nu_d(\mathbb{R} \cap D_\mu) + \nu_c(\mathbb{R} \cap D_\mu) = 1 \end{align}

なので, $\mu$ は純不連続分布と連続分布の凸結合となっている ( 上に記した凸結合の定義と照らし合わせるなら, $\nu_d(\mathbb{R})$, $\nu_c(\mathbb{R})$ をそれぞれ $c_1$, $c_2$ とみなせばよい ) .

$\square$

  ii   連続分布が絶対連続分布と特異分布の凸結合
$\mu$ を連続分布とする.

\begin{align} s = \sup \{ \mu(E) \mid E \in \cB, \lambda(E) = 0\} \end{align}

とおくと, 集合列 $E_n \in \cB$ があり,

\begin{align} \lambda(E_n) = 0,\; \mu(E_n) \longrightarrow s \end{align}

とできる.

\begin{align} S = \bigcup_{n=1}^\infty E_n \end{align}

とおくと,

\begin{align} \lambda(S) = 0,\; \mu(S) = s, \end{align}

したがって,

\begin{align} A \subset S^c,\; \lambda(A) = 0 \Longrightarrow \mu(A) = 0. \end{align}
$\because$ ( click )

略証であるが, 対偶を取って何を述べているか考えるとわかりやすい.

\begin{align} \overline{\mu(A) = 0} \Longrightarrow \overline{A \subset S^c \wedge \lambda(A) = 0} \end{align}

これはすなわち,

\begin{align} \mu(A) \gt 0 \Longrightarrow A \subset S \vee \lambda(A) \gt 0 \end{align}

なので, これが意味することを考えよう. これは, $\mu(A)$ が正ならば, $\lambda(A)$ も正か, 上で定めた $S$ に $A$ が含まれるかのどちらかであるということを述べている.

なお, $\mu(A) \gt 0$ で $\lambda(A) = 0$ なのに $A \subset S$ とならないような $A$ はない. なぜならば, もしそのような $A$ があれば, $s$ は $\mu(A)$ を加えることで更に大きな値にできるから ( 即ち $s$ の定義に反する ) . $\square$

今,

\begin{align} \nu_s (E) = \mu(E \cap S),\quad \nu_{ac} = \mu(E \cap S^c),\; E \in \cB \end{align}

とおくと,

\begin{align} \nu_s(E) + \nu_{ac}(E) = \mu(E \cap (S + S^c)) = \mu(E \cap \mathbb{R}) = \mu(E) \end{align}

なので, i と同様に,

\begin{align} \mu = \nu_s(\mathbb{R}) \frac{\nu_s}{\nu_s(\mathbb{R})} + \nu_{ac}(\mathbb{R}) \frac{\nu_{ac}}{\nu_{ac}(\mathbb{R})} \end{align}

とすることで, 凸結合とできる.

$\square$

なお, 当然であるが3つとも現れるとは限らない. 係数が $0$ となるときには, その項を取り去れば良い.

$\blacksquare$

感想・参考文献

参考文献

伊藤清 確率論 (岩波基礎数学選書)

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