コンパクト集合の性質

複素解析 ( 通称アールフォルス ) の, コンパクトに関する記述を行間を埋めつつまとめる. アールフォルス複素解析を読んだ際, 集合・位相に関する記述は既習だったので飛ばしたが, 改めて読むと面白いかもしれない.

この節 ( 3章1.4 ) には, アールフォルスも「論理的同値が決して明白でなはないコンパクトの3つの特徴づけを示したが, それを読者はよく味わうべきである. 」 とただならぬ注記を与えているので, 記事にして, 味わってみる.

黒字は, そこそこに参考文献の裏付けがある 青字は, 私によって埋められた行間など ( その分正確性に欠けうる ) . 非専門家が書いています. 十分に批判的に読んで頂くようお願いいたします. 間違い・疑問点などあれば, ぜひコンタクトフォームへ連絡いただけると幸いです.

準備:いくつかの定義

定義5
コーシー列が必ず収束する様な距離空間は「完備」であるという.

注:距離空間の完備な部分空間は閉集合, 完備な距離空間の閉部分集合は完備. 本文では, 証明は簡単ということで省かれている. 距離空間では, 閉部分集合内の任意の点列が収束するとき, その収束先もその部分集合に属することを思い出すと良いと思う.

今, コンパクトという, もっと強い概念を導入する. 強いというのは, 以下で $\Leftarrow$ が必ずしも成立しないということである.

集合, 空間がコンパクト $\Rightarrow$ 完備.

コンパクトの特徴づけは, 同値なものが幾つかありどれを選ぶかは趣味の問題である. ここでは, 初心者にわかりやすいとされるアプローチを取る. まず, 開被覆を定義する.

定義
開集合の集まりがあり, その合併が $X$ を含むときその開集合の集まりを集合 $X$ の「開被覆」という.

部分被覆とは, その開集合の集まりの一部分で, 合併がやはり $X$ を含むもの. 有限被覆とは, 開集合の有限個の集まりで合併が $X$ を含むもののこと.

定義6
集合 $X$ が「コンパクト」であるというのは, $X$ の任意の開被覆が有限被覆となる部分被覆を常に含むこと.

この性質は, しばしばHeine-Borel性質と呼ばれる, その重要性は, 開被覆の言葉で定式化したときに, 証明が簡単になることが多い点である.

定義7
集合 $X$ が「全有界」というのは, ${}^{\forall} \varepsilon \gt 0$ に対し, $X$ が半径 $\varepsilon$ の球の有限個で覆えること.

これは, 有界よりも強い. プレコンパクトともいうらしい. コンパクト一歩手前という感じか?

コンパクト空間の性質

性質1  コンパクト空間は完備

証明

$X$:コンパクト, $\{ x_n \}$:$X$ のコーシー列とする. $y$ が $\{ x_n \}$ の極限でないとすると, ある ${}^{\forall} \varepsilon \gt 0$ があり, 無限個の $n$ に対し, $d(x_n, y) \gt 2 \varepsilon$ が成立 ( $d$ はこの空間の距離 ) . これは, 数直線で考えると当然にも感じるが一般的な距離空間なので少し厳密にみておく. $y$ が $\{ x_n \}$ の極限であることは, 以下とかける. $$ {}^{\forall} \varepsilon \gt 0,\; {}^{\exists}N \in \mathbb{N},\; {}^{\forall}n \in \mathbb{N} \quad n \geq N \Rightarrow d(x_n, y) \lt \varepsilon .$$ ここでは, これの否定なので, $$ {}^{\exists} \varepsilon \gt 0,\; {}^{\forall}N \in \mathbb{N},\; {}^{\exists}n \in \mathbb{N} \quad n \geq N \land d(x_n, y) \geq \varepsilon .$$ つまり, ある $\varepsilon$ があって以下がいえる. あらゆる $N$ に対して $n \geq N $ かつ $ d(x_n, y) \geq \varepsilon$ となる $n$ が見つかる.

$ n_0$ を $n_0 \leq m, n $ ならば $ d(x_m, x_n) \lt \varepsilon $ をみたすようにとる. $\{ x_n \}$ がコーシー列なのでこのような$n_0$ は必ず取れる. $ d(x_n, y) \gt 2\varepsilon$ となる $n \geq n_0$ を一つとり固定すると, 全ての $m \geq n_0$ に対し, $ d(x_m, y) \geq d(x_n, y) - d(x_m, x_n) \gt \varepsilon$ となる ( 三角不等式 $d(x_m, y) + d(x_m, x_n) \gt d(x_n, y)$ を使う ) . ゆえに, $y$ の $\varepsilon$ 近傍 $B(y, \varepsilon)$ をは有限個の $x_n$ しか含まない. ( $n \geq n_0$ なる $x_n$ は全て $B(y, \varepsilon)$ から出てしまうから ) .

$x_n$ を有限個しか含まない開集合の全体を考える. $\{ x_n \}$ がもし収束しないとすると, 前段落の内容より ( 全ての点が収束先とはならないのだから ) この 開集合の集まりは, $X$ の開被覆となる. $X$ はコンパクトと仮定しているのだから, 有限被覆をもち, それを $U_1 , \cdots , U_n$ とする. 各 $U_k$ は有限個の $x_n$ しか含まないのだから, 当然 $x_n$ は有限個となり矛盾 ( $x_n$ はコーシー列という約束であった ) .

$\blacksquare$

性質2  コンパクト空間は有界

注:距離空間が有界とは, どの二点間の距離も有限定数以下となること.

証明

これを示すため, 一点 $\{ x_0 \}$ をとり球 $B(x_0, r)$ を全て考える. これは, 距離空間の部分集合 $X$ の開被覆であり, さらに $X$ がコンパクトであれば有限被覆を含む. つまり, $X \subset B(x_0, r_1) \cup \cdots \cup B(x_0, r_m)$ となり, $r = \max(r_1, \ldots ,r_m)$ とおくと, $X \subset B(x_0, r).$ ${}^{\forall} x, y \in X$ に対し, $d(x, y) \leq d(x, x_0) + d(y, x_0) \lt 2r$ となり, $X$ が有界だとわかった.

$\blacksquare$

性質3  コンパクト空間は全有界

証明

全ての半径 $\varepsilon$ の球の集まりは開被覆で, $X$ コンパクトなら, $X$ を覆う有限個が選べる.

$\blacksquare$

命題  全有界 $\Rightarrow$ 有界

証明

$X \subset B(x_1, \varepsilon) \cup \cdots \cup B(x_m, \varepsilon)$ とすると, $X$ の任意の二点の距離は, $\lt 2 \varepsilon + \max\,d(x_i, x_j)$ となる.

$\blacksquare$

定理6:コンパクトと完備・全有界の関係

定理6  集合がコンパクト $\Leftrightarrow$ 完備かつ全有界

証明

 $\Rightarrow$ 
コンパクト空間の性質でしめした.

 $\Leftarrow$ 
これは, Borel-Lebesgueの被覆定理 の証明を一般化したものである. もし, 抽象的でわかりづらければ, 上記記事を読んでもらうとサポートになると思う.

距離空間 $S$ が完備で全有界と仮定する. そして, 開被覆で有限部分被覆を含まないものがあるとする. $\varepsilon_{n} = 2^{-n}$ とおく. 全有界性より, $S$ が有限個の $B(x, \varepsilon_1)$ で覆われることは仮定している. その有限個の各々が有限部分被覆をもてば, $S$ 自身が有限部分被覆をもつことになり矛盾が起きるので, ある $B(x_1, \varepsilon_1)$ は有限部分被覆をもたないはずである. $B(x_1, \varepsilon_1)$ 自身も全有界だから, 同様にして $x_2 \in B(x_2, \varepsilon_2)$ が有限部分被覆を持たないように取れる. この作業を続けて, 数列 $\{ x_n \}$ を $B(x_n, \varepsilon_n)$ は有限部分被覆をもたず, $x_{n+1} \in B(x_n, \varepsilon_n)$ を満たすようにとれる. 後者の条件は, $d(x_n, x_{n+1}) \lt \varepsilon_n$ という意味で,

\begin{align} d(x_n, x_{n+p}) &\lt d(x_n, x_{n+1}) + d(x_{n+1}, x_{n+2}) + \cdots + d(x_{n+p-1}, x_{n+p}) \\[5pt] &\lt \varepsilon_n + \varepsilon_{n+1} + \cdots + \varepsilon_{n+p} \notag \\[5pt] &= 2^{-n+1} \notag \end{align}

となる. ゆえに, $\{ x_n \}$ はコーシー列である. これは, 極限 $y$ を持ち, $y$ は与えられた開被覆の1つの開集合 $U$ に含まれる. $U$ は開集合だからある $B(y, \delta)$ を含む. $n$ を, $d(x_n, y) \lt \delta/2$, $\varepsilon_{n} \lt \delta/2$ となるよう十分大きく取る. $d(x, x_m) \lt \varepsilon_{n}$ なら $d(x, y) \leq d(x, x_n) + d(x_n, y) \lt \delta$ となり, $B(x_n, \varepsilon_n) \subset B(y, \delta)$ である. ゆえに, $B(x_n, \varepsilon_n) \subset U$ で, $B(x_n, \varepsilon_n)$ で, 有限部分被覆をもってしまう. これは, $B(x_n, \varepsilon_n)$ のとりかたに反するので矛盾である.

$\blacksquare$

系  $\mathbb{R}$, $\mathbb{C}$ の部分集合がコンパクト $\Leftrightarrow$ 有界閉集合.

証明

 $\Rightarrow$ 
次のことを総合してわかる.

  • TH6より, コンパクト $\Rightarrow$ 有界, 完備
  • $\mathbb{R}$, $\mathbb{C}$ は完備( 証明略 )
  • 完備空間の完備な部分集合は閉集合( 証明略 )

 $\Leftarrow$ 
$\mathbb{R}$, $\mathbb{C}$ が完備であることは既知なので, $\mathbb{R}$, $\mathbb{C}$ の有界集合が全有界であることをいえばよい.

$\mathbb{C}$ の場合を示す. $X$ が有界とすると, ある円に含まれ, ゆえにある正方形に含まれる. その正方形を1辺の長さが任意に小さい正方形の有限個の和に細分すると, 小正方形は半径の小さい円に含まれる. ( 教科書には, この証明の厳密性について述べられている )

$\blacksquare$

定理7:コンパクトと集積点の関係

ここでは, コンパクト集合の3つ目の特徴づけとして集積値に注目する. $y$ が点列 $\{ x_n \}$ の集積値であるというのは, $y$ に収束する部分列 $\{ x_{n_{k}} \}$ が存在するということである.

定理7  距離空間がコンパクト $\Leftrightarrow$ 任意の無限点列が集積値をもつ.

普通, Bolzano-Weierstrassの定理とよばれる.

証明

 $\Rightarrow$ 
$\{ x_n \}$ を無限点列として, $y$ が $\{ x_n \}$ の集積値でないとすると, $y$ の近傍で, 有限の $\{ x_n \}$ しか含まない. もし, 距離空間がコンパクトで, $\{ x_n \}$ を有限個しか含まない開集合の全体は開被覆となり, さらに有限部分被覆をとれる. このとき, 点列 $\{ x_n \}$ は有限個となり矛盾.

 $\Leftarrow$ 
① 完備性, ② 全有界性を示せばよい.

① 完備性を示す. つまり, 集積点をもつコーシー列は収束することを示せばよい. これは, さらっとすまされているが, 「距離”空間”であるからこそ, 集積点をもつコーシー列は収束する」という認識であっているだろうか?

② 全有界を示す. 空間が全有界でないと仮定する. すると, 全有界の定義より $\varepsilon \gt 0$ があり, 空間は有限の $\varepsilon$-近傍で覆うことはできないということになる. 点列 $\{ x_n \}$ を次のようにつくる.

  1. $x_1$ は任意にとる.
  2. $x_1, \ldots , x_n$ が決まったとき, $x_n$ を $B(x_1, \varepsilon) \cup \cdots \cup B(x_n, \varepsilon)$ に入らないようにとる.
このようなとり方はいつでも可能である. なぜなら, $\varepsilon$-近傍の有限個は空間全体を覆わないと仮定しているからである.

今, 上の点列 $\{ x_n \}$ の作り方より, $d(x_n, x_m) \gt \varepsilon$ だから $\{ x_n \}$ が収束部分列を含まないことは明らかである. これは, 集積値をもつことに反する.

$\blacksquare$

主な参考文献


もちろん, アールフォルス 複素解析.
複素解析 ( 高橋礼司 ) 新版 複素解析 (基礎数学)
その他, 集合論の教科書すこし.

この記事のTOP    BACK    TOP